毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「介護報酬引き下げと処遇改善加算の関係」という話題を紹介します。
4月1日から介護報酬が改定され、事業者に支払われる介護報酬が2.27%減額される。改めて説明すると、介護報酬とは、事業者が利用者に介護サービスを提供した際に、その対価として事業者に支払われるサービス費用のこと。膨らみ続ける介護費用の抑制に努めたい政府は今年1月、介護報酬の引き下げに踏み切った。
給料アップの対象は介護職員だけ? 同じ職場の他のスタッフは?
一方で政府は、深刻な人手不足を解消するため、介護職員の賃金をアップする「処遇改善加算」を拡充し、賃金を1人あたり1万2000円増やす。
ところがこれが現場で波紋を呼んでいるという。
というのも、介護事業所には直接介護に携わる職員のほかに、看護師や調理師、送迎といった職員も多数在籍している。仮に介護職員の賃上げを実施した場合、他のスタッフから不満が出る可能性がある。
一方、全スタッフの賃上げを実施すれば、介護職員以外の賃上げ分は、事業者の持ち出しになってしまう。いずれにしても、事業所側は頭を悩ませられることになるのだ。
3月31日付けの日本経済新聞によれば、介護業界の大手12社に調査をしたところ、ヒアリングした12社すべてが15年度に介護職員の賃金を引き上げると回答。
さらに、ニチイ学館やユニマットそよ風など4社は、処遇改善加算の原資である1.2万円を上回る賃上げに踏み切る予定だという。
また、介護職だけでなく、処遇改善加算の対象外の調理や送迎など周辺スタッフまで賃上げ対象にしたりする動きが出ているという。これであれば、事業者側は“身銭を切る”ことになるが、労働者側に不満は生じない。
「本当に給料はアップする?」 現場の声・ネットの声
しかし、「介護報酬ダウン&職員の賃上げ」という政府方針に対する現場の反応は、お世辞にも芳しいものとは言い難い。ヘルパーとして10年以上の稼働経験を持つ40代の女性・Hさんは、こう語る。
「こんなやり方じゃ、経営が苦しい小規模の事業者は潰れてしまうかもしれない。そもそも、人手不足に対する有効策を打ち出せていないのは国や政治家の責任なのに、『事業所は儲け過ぎだから介護報酬減額』と、経営に口出しするなんてなんかおかしいですよね」
ネットを見ても、不満の声が多く、特に言われているのは以下の3点。
・介護報酬を減らされたら、撤退するか縮小するしかない事業所が出てくる
・施設も人材も不足しているのに、撤退や縮小を加速させる報酬改定はおかしい
・処遇改善加算の運用は事業者次第だから、1.2万円がちゃんと人件費に回るか疑問
「介護報酬ダウン」と「賃上げ」。アメとムチを使い分けたともいえる今回の政府方針だが、現場の怒りを買っている状況とも言える。
働く側の立場からすると、給料がアップするかも…というのはうれしいニュース。しかし、まだまだ安心はできない。
今年は、給与明細から目が離せない一年になりそうだ。