毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「広島東洋カープブームに沸く地元の老人ホーム」という話題について紹介します。
今年の野球は、広島の老人ホームで大盛り上がり!
いま、日本でもっとも盛り上がっている街といえば広島だろう。ご存じのように広島東洋カープが25年ぶりのリーグ優勝を果たした。優勝が決まった9月10日には広島全体が歓喜に酔いしれたが、その興奮は、もともと野球に興味のなかった地元のお年寄りにまで波及したという。
新宿区在住の40代の男性・Fさんは広島市出身。大学進学を機に上京したFさんは今年の夏、妻と息子を連れて広島の実家に帰省した際、地元で野球の試合を観戦し、その時あることに気づいたのだという。Fさんが語る。
「市民球場(以前の本拠地)には行ったことがあったんですけど、マツダスタジアムに行ったのは初めてだったんです。で、試合の途中にビールを買うために球場内をウロウロしていると、車椅子コーナーがあって、そこでカープを応援している人を見かけたんです。
ボクは『野球場イコール階段だらけ』という印象があったので、すぐにスマホでマツダスタジアムの情報を調べてみると、専用の駐車場や乗降場があるだけでなく、専従のスタッフまでいることがわかりました。そこでとっさに母のことが思い浮かんだんです」
車椅子でも快適に野球観戦ができる時代に
Fさんの母親は80代で、数年前に地元広島の老人ホームに入居。野球にはまったく興味がなかった母親だが、施設内では入居者が大きなテレビでカープの試合を観戦するイベントが定期的に開かれており、今年はカープが好調なこともあって、親子の会話の端々にカープの話題が出るようになっていた。Fさんは、そんな母親を車椅子で球場に連れて行くことを思い立ったのだ。
「施設の方に相談すると『ぜひ連れて行ってあげて下さい!』と、快諾されたので、何とかチケットを取りました。母は最初、『野球場なんて……』と、渋っていたんですが、孫(Fさんの息子)の『おばあちゃん、一緒に行こうよ』の声に負けて、一緒に行くことになりました」
球場までは介護施設のスタッフが同行してくれたうえ、球場内ではホスピタリティスタッフも対応してくれたため、「何の問題もなかった」と振り返るFさん。試合を最後まで見ることはできなかったが、人生初の野球観戦を楽しんだ母親は、「あっという間に時間が経った」と、たいそう満足した様子だったという。
Fさんによれば、施設内の盛り上がりは想像を超えており、
「母に会いに行った時、入居者やスタッフの会話は、カープの試合結果や選手の話題で持ち切り。カープの“マジック”が出た時には大きな模造紙に残りのマジックが大書され、テレビで試合を見る時はメガホンや応援グッズを用意する人もいたみたいです」
とのこと。実際に球場に試合を観に行ったFさんの母親は施設内で“ヒーロー扱い”されており、周りの入居者から「私も行ってみたい」「羨ましいわ~」と言われ、まんざらでもない様子だったそう。それからというもの、野球の話が出るたびに楽しそうに語り出すのだそうだ。