毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「ひきこもり経験は隠す必要なし?」という話題について紹介します。
訪問介護事業所に、ひきこもり経験者がやってきた!
平成という時代に一気に顕在化した社会問題が「ひきこもり」。
かつては「就職に失敗した若者の問題」と思われていたひきこもり問題だが、近年では“高齢化”が取り沙汰され、80代の親が50代の子どもの生活を支える「8050問題」という新たな単語も登場した。
ひきこもり状態の人の数は推計50万人とも100万人ともいわれているが、東京都内の訪問介護事業所で働くハセガワさんは先日、少し風変わりなひきこもり経験者と面接したという。
ハセガワさんは、その訪問介護事業所で働き始めて10年以上が経つベテランスタッフ。
前職も介護業界で、介護関係の資格をいくつも持っているハセガワさんは、現場スタッフとして大活躍を続ける一方、スタッフ指導や職員採用に関しても責任ある立場にいる超優秀な女性だ。
そんな彼女は、これまで100人以上の転職・就職希望者と面接してきたが、先日こんな応募者に出会ったという。
面接で堂々と「ひきこもりでした」と答えた30代男性
「先日、うちの訪問介護事業所に応募してきたのは、Tさんという30代の男性でした。
面接の時に履歴書を見ると、大学を出た後の経歴が見事にぽっかり空いていたんです。
当然、その点は聞かざるを得ませんが、私の質問に対してTさんは『実は、ひきこもりでした』と答えました。
これまで履歴書に空白があった人は何人もいましたが、大抵はフリーターか、資格試験の勉強、家族の介護などが理由で、堂々と『ひきこもりです』と答えた人は初めてでした」
履歴書に空白がある応募者は、面接の時にその理由を何とかひねり出すのが当たり前。
その努力を怠ったTさんは、その時点でおしまいかと思いきや、ハセガワさんは逆に興味を持ったという。
ひきこもり経験者が採用に!その理由は?
「こんな言い方をして良いのか分かりませんが、そういう人が初めてだったので、面接官としてよりも、純粋な好奇心で彼に興味を持ったのです。
私が、『もし良かったら、どうしてひきこもりになったのか教えてもらえますか?』と聞いたら、Tさんはとつとつと経緯を語ってくれました。
大卒時が就職氷河期だったこと、希望していた職種は極端に狭き門だったこと、その時期に父親が亡くなって家の手続きなどで就職活動ができなくなったこと、少しまとまった遺産が入って生活には困らなかったこと……。
恐らく彼が一番恐れていたのは、ひきこもり経験について尋ねられることだったと思います。けれどもTさんは、少し伏し目がちに、それでも正直に『ひきこもりをしていました』と告白し、その経緯についても丁寧に説明をしてくれました」
人と接するのが介護の仕事。ひきこもり経験者でも大丈夫?
そんなTさんの正直な姿勢に感動したハセガワさんだが、気になる点が1つだけあったという。
「どうしても聞かなくてはいけなかったのは、ひきこもり経験者の彼が、不特定多数の人と触れ合う訪問介護の仕事ができるのかという点です。
そのことについて尋ねると、Tさんは『今まで人と接触する機会が少なかった分、
人と触れ合うことの大切さは理解しているつもりです』と言いました。
このセリフを聞けば、Tさんが前向きに人と関わろうとしているのが十分わかったので、彼を不採用にする理由は1つもありませんでした」
無事に訪問介護で働き始めたTさんのその後は…
現場では、最初はTさんを採用したことを不安視する声もあったというが、実際はどうだったのだろう。
訪問介護事業所に採用となったTさんは、その後、介護職員初任者研修を受けてホームヘルパーとして働き始め、1人前になるのも遠くなさそうなのだとか。
ひきこもりを不利に感じる気持ちは理解できるが、面接とは自分をすべてさらけ出す場所と考え、誠心誠意をもってぶつかれば、自ずと道がひらけてくることもあるようだ。