「介護する人が楽にできる日々是介護術」を、はたして「介護を受ける人」はどんなふうに感じてくれているのでしょうか? 今回は人と人が触れ合う技術である介護術を、受ける方の感覚から考えてみます!
<協力 身体技法研究家 甲野陽紀氏/文・構成 佐藤大成>
こんにちは、身体技法研究家の甲野陽紀です。前回まで取り組んできた「介護の現場に学ぶ」シリーズで改めて感じさせられたことは、“介護術とはそれを受ける人と介護する人の両者が、ともによいと感じることが大事なんだなあ”ということでした。介護をする側が相手の方を気遣うことはもちろんのことですが、介護を受ける方も相手を信頼するという関係があってはじめて納得のいく介護術が生まれる、ということかもしれません。
「受け手との相互的な関係が生まれるような介護術の探求」は、これからの新しいテーマのひとつになりそうです。ということで、今日はそんなことを念頭に置きつつ、少し視点を変えて、日々是介護術の「介護受け役担当」であるタネエディターに「介護術を受けた実感」を聞いてみたいと思います。(編集部注/以下、甲野陽紀さんは陽、タネエディターはタと略します)
陽 ずいぶんいろんなワザを受けていただきましたね。 どんな場面でもどんな技にも疑問をはさまず「受け手」に徹していただいたおかげで、こちらも研究に専心できました。
タ 疑問に思う前に、最初からずっと「なんだ、これは?」の連続でしたから(笑)。<指先のなぞ2>でも実感しましたが、指先を意識するだけで、立っているカラダがぐっと安定するなんて考えたこともなかったです……(写真a,b)
陽 でも難しいことではありませんよね。指先や手のひらのワザは、だれにでもできます。
タ そうなんです。そこもフシギなところで。カラダの安定感が増すといっても、踏ん張るように力を入れているわけではないというところもナゾでした。
陽 むしろ、カラダの一部分に力が入った状態だと、カラダ全体のつながりは弱くなっているんですよ。
タ そうなんですね。意識しすぎて、手や指のどこかに力がはいったりするとかえって安定感がなくなるんですよねえ……
陽 指一本で押した程度でもグラリときますね(笑)
タ ちょっと悔しいんですけど(笑)。最初はどうしてだろう? という感じだったんですが、でもだんだんに“これがしっかりしているってことだな”と実感としてわかるようになってきました。
「つながり感」ってどんな感じといわれるとまだはっきりとは表現できないんですが、カラダ全体がつながりあって動けるようになると、結果としてカラダは「しっかりする」んだなあ、と。しっかりしたからといってカラダが硬くなるわけではない。つまり、カラダはわかっているということですよね、どういう動き方がカラダにとって心地よいかどうかが。
陽 まさに、そういうことだと思います。
タ <指先の感覚を磨く1>で、新聞紙をつまんで片足立ちをしたときの安定感にもびっくりでした!(写真c,d)
陽 こちらは片足で立っているタネさんにつかまってジャンプしていたのにピクリともしない(笑)
タ あれでギュッと新聞紙をつまんでしまったら途端にグラッときて……微妙な違いなんだけれど、カラダはその微妙な違いで変わってくるんだなあ、と。
陽 手や足の指先を上手に使うと、その微妙な違いが表現できる、ということですね。
タ そうなんでしょうね。手足の指先という、ふだんぼくらがカラダの中に含めないようなこうした末端部分が、カラダ全体のつながり感をつくりだすことに貢献している、ということは意外なというか、ホントに興味深い発見でした。
陽 指先のような末端は、「カラダの外にあるものとの接点」になる部分でもありますからね。何かを持つというような目的をもった動作をすることの他にも、カラダが必要とする大切な役割を持っているのではないでしょうか。外の状況を感知するセンサーとして働きながら同時に、そのときどきの状況に合わせてカラダ全体が動き出していけるように、動きのリード役としても機能している------そんな感じがします。
タ なるほど。だとすると、末端は介護術においてもとても重要な役割を果たしている、ということになるんでしょうね。なんといっても、介護術は「人と人が触れ合う」接点で生まれてくるものなので。
陽 たしかにそうですね。そういう意味では指先での「触れ方」ひとつで、介助をする方のカラダが変わるし、介護を受ける方の感覚も変わる、といえるのかもしれませんね。
次回に続きます!
◆ Profile ◆
甲野陽紀(こうの•はるのり)
身体技法研究家。東京•多摩市生まれ。高校卒業後、「古武術介護」の提案者としても知られる武術研究家の父、甲野善紀氏の補佐役として各地の講習会などに同行する中で、ささいな動きの違いから感覚がさまざまに変わっていくカラダの不思議さ、奥深さを改めて実感し、特定の方法やジャンルによらない独自の視点からの身体技法の研究を始める。見る、触れる、曲げる、といった、わたしたちが日々、何気なく行っている動作からカラダを見つめ直すことで新しい感覚が生まれていく“発見の体験”は、多くの方の共感を呼び、全国各地の講習会、講演会などで活躍中。スポーツや武術、音楽、医療、介護、運動嫌いの方のための身体講座まで、講座のテーマは幅広く開かれており、ファン層も多彩。都内では、朝日カルチャーセンター新宿•湘南、よみうりカルチャー自由が丘などで定期的に講習会を開催している。日々のくわしい活動はオフィシャルウエブサイトへ。
http://hkhp.p2.bindsite.jp/index.html
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