こんにちは、身体技法研究家の甲野陽紀です。今日の「考える相談室」は「稽古のあり方」について考えてみます。「繰り返し練習することはいいことだ、毎日やることもいいことだ」とよくいわれる常識はさてどうなんだろう?というところが出発点です。さて、日々是介護術の場合、その常識ははたして?
<協力 身体技法研究家 甲野陽紀氏/文・構成 佐藤大成>
タ 前回、タイムアップになってしまってお答えできなかった質問からいきましょうか。
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質問「日々是介護術は楽しく拝見していますが、ふだん、どういうふうに動作の練習をしたらいいのでしょうか。ときどきでも効果があるのか、毎日、継続してやったほうがいいのか、そのへんも含めて教えてください」
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ということなんですが。ぼくは個人的にはよくわかります、この方の気持ちが。なんとなく教科書というか、“こういう動作を身につけるにはこういう練習をしたらいい”みたいなカチッとした“教え”があるとみんな安心するんですよね。
陽 それは、わたしにもわかります(笑)
タ ホントですか? 陽紀先生の場合でも?
陽 じつは中学生の頃に、父 (武術家の甲野善紀氏) から受け身を教えてもらったことがあるんですよ。ところが、ぜんぜん出来なくて(笑)
タ へぇー、そうなんですか。いまからだとぜんぜん想像できませんが。
陽 その頃は別に武術をやってみたいとか、そんな気持ちがなかったんですね。心のどこかではうっすらとは興味はあったのかもしれないですけれど、“じゃあ、自分からやってみよう!”と思うところまではいってなかったんでしょうね。
タ そうなんですかあ……なるほどねえ、そういう陽紀先生がいまでは自分からいろんなワザを編み出すまでになった、というのはある意味、すごいことですよね。
陽 やる気とか興味のないときにいくら練習しても身につかない、ということなのかもしれませんね。「こうしなさい」とか「こうした方がいい」という“教え”はいかに立派なものでも、やる気がないときにやってもたぶん身につかないんですよ。
タ 学校の先生がこの話を聞いたら、やる気なくしちゃうかもなあ(笑)……でも、 逆に本当にやる気になったらスゴいことになるということだから。
陽 そうですよね。
タ まずはどういうふうにやるか、という前に「やる気」というか「取り組む姿勢」を整えておくことが大事ということかもしれないですね。そのうえで、じゃあ、どんな練習というか稽古をしたらいいんだろう、ということが次にくるわけですが。陽紀先生は以前、「反復練習はおすすめできないなあ」といわれてましたよね?
陽 反復練習といっても、自分で考えながらひとつひとつの動作をていねいに見ていく、ということをされる方ならいいと思うんですよ。そこに感覚と動作がつながる道筋もでてくると思います。
タ でも、それは一般的にいわれる反復練習とはちょっと違いますね。
陽 そうですよね。スポーツやジムトレーニングでよく見かけるような、ある動作をひたすら反復する練習というのは、部分的な筋力をつけるとか、ある動作を自動化することには効果があるのかもしれませんが、日々是介護術で稽古しているような「から
だの感覚を実感しながら日々の動作をとらえなおしていく」ことにはつながらないと思うんですよ。
タ たしかにそうですよねえ……反復練習って「考えない」とか「感じない」のをよしとするようなところがありますよね。そのへんが体育会系のイメージをつくっているところなのかなあ……前回、話題になった「気にかける」というような気持ちのあり方とは真逆のことですものね。
陽 そう思います。以前の稽古のときにもお話したと思いますが、ひとことでいえば「量より質」が大事です。繰り返す量よりも、ひとつひとつの動作そのものに注目していきながらその質を問うことですよね。
タ 動作の質に注目するというのは、たとえば「思う」と「感じる」がどういうときにどんなつながり方をするのか、そのときカラダのつながりはどうなっているのか------というようなことに興味をもっていく、というようなことですよね。
陽 まさにそういうことですよね。そうやって動作の質に注目しながら、必要があればその質を変えていくための工夫を考えていく、ということかと思います。
タ 質問の中にあった「規則的に稽古するのがいいのかどうか」ということについてはどうでしょうか? 素人考えではやらないよりはやったほうがいいんじゃないか、と思ってしまうんですが……
陽 それも「やる気」と関わってくることですよね。
タ ああ、なるほど。やりたくないのに、稽古だからといって毎日やっても……ということですね?
陽 はい。というのは、「感じる」を別の言葉でいうと「経験する」ということですからね。
タ ケイケン?ですか。
陽 というと、むずかしく聞こえるかもしれませんが、たとえば、朝起きて、朝日を浴びながら歯を磨いていると“気持ちがいいなあ”とか思いますよね? それは歯磨きをちゃんと経験した、ということだと思うんですよ。
タ なるほど。それはわかります。
陽 でも、何か考えごとをしたりしてその時間を過ごしていると、気持ちのいい朝日のことも、どこで歯磨きをしたかということも、後でまったく思い出せないということもありますよね?
タ なるほど! それは「やる気のない状態」とほとんど同じことですね。やる気がないと「感じる」もよく働かないから、いくら練習や稽古をしても、その体験はカラダに経験としては残らない、と。
陽 そういうことだと思います。ですから逆にいえば、やりたいと思ったら何時間やってもいいし、やってみたらいいと思うんですよ。一日中でも。それは必ずカラダに経験として残ることですから。
タ ということですね。稽古するときはひとつひとつの動作の質に注目しながら、やる気のあるときにとことんやりましょう、と。いやー、深いですね、いつものことながら。では、次回も引き続き!
◆ Profile ◆
甲野陽紀(こうの•はるのり)
身体技法研究家。東京•多摩市生まれ。高校卒業後、「古武術介護」の提案者としても知られる武術研究家の父、甲野善紀氏の補佐役として各地の講習会などに同行する中で、ささいな動きの違いから感覚がさまざまに変わっていくカラダの不思議さ、奥深さを改めて実感し、特定の方法やジャンルによらない独自の視点からの身体技法の研究を始める。見る、触れる、曲げる、といった、わたしたちが日々、何気なく行っている動作からカラダを見つめ直すことで新しい感覚が生まれていく“発見の体験”は、多くの方の共感を呼び、全国各地の講習会、講演会などで活躍中。スポーツや武術、音楽、医療、介護、運動嫌いの方のための身体講座まで、講座のテーマは幅広く開かれており、ファン層も多彩。都内では、朝日カルチャーセンター新宿•湘南、よみうりカルチャー自由が丘などで定期的に講習会を開催している。日々のくわしい活動はオフィシャルウエブサイトへ。
http://hkhp.p2.bindsite.jp/index.html
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