こんにちは、身体技法研究家の甲野陽紀です。日々是介護術という“橋”の下を流れる川には一艘の船が泊まっています。その船腹に書かれているのは「ちょっと見方を変えてみたら……」というナゾめいた言葉。といっても実はナゾでもなんでもなく、日々是介護術ではいつもその言葉を旗印にいろんなことを稽古しているのです。そんな話に今日はなりそうな予感がしますが―――では、いきましょうか!
<協力 身体技法研究家 甲野陽紀氏/文・構成 佐藤大成>
タ ということで、今回の質問はこれです。
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質問「介護施設で働いているのですが、仕事が忙しくなかなか稽古の時間がとれません。日々是介護術で見て役に立ちそうだなあと思うことがよくあるのですが、ふだんの仕事の中ではすぐには取り入れられないのでどうしたらいいかなあと思っているのですが……」
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陽 なるほど。
タ いろんな人からよく聞きますねえ、これは。介護施設に限った話ではないでしょうけれど。
陽 そうですね。だれでも思いあたることがありそうですね。
タ そうなんですよ。これが終わったらやろうとか、明日起きたらやろうとかね、考えるんですよ。でも、そんなときに限って電話がきたり。
陽 寝坊して大急ぎで出かけたり(笑)
タ はい(笑)。そういうことは自分でやりくりしろよ、っていわれそうですけれど、それとは別にもうひとつ問題がありそうですよね。「ふだんの仕事の中ではすぐにはとりいれられない」というあたりに。
陽 個人的な問題だけでは解決できないようなことがある、わけですね。
タ やっぱり施設は組織が主体ですし、介護の場合はつねに自分だけでできない、ということがありますからね。実際の現場で試してみたいと思っても、なかなかできないということはあるんじゃないでしょうか。
陽 わかります。たいていはチームで動くわけですからね。でもそこは変えられないわけですから、そういうときは見方を変えてしまえばいいんですよね。
タ というと?
陽 稽古をする時間を作ろうとか思わないで、「いつでもどこでも稽古はできる」というふうに考えてみたらどうでしょうか?
タ なーるほど。いつしよう?とか考えるから時間がないということになるわけで。とはいっても、どうやって稽古を?と聞かれそうですが……
陽 その人の閃きでいろんなことができると思いますけど、いちばん取り組みやすいのはまず、日々是介護術の最初のテーマ「指先の感覚」でしょうか。手で何かをもつ、何かをつかむ、といった動作はしょっちゅうありますよね。そういうときに指先から動く気持ちをもってやってみるとどうかな、ということを気にかけているだけで、感じ方がずいぶん変わってくるはずですよ。
タ たしかに、そうですよね。パソコンとかスマホとかでタップするときも陽紀先生のいう「指先」で打つとすごくスムーズなんですよ。「いつでも稽古」というのはありですよ、これは。
陽 そういうときに、前回もいいましたけれど、「やらなくちゃ」という気持ちではなくて、ふっと思ったときにやってみるというのがいいでしょうね。
タ ここで指先から動いてみたらどうだろう?と思ってみるわけですね。そうすると、さっきと感じが変わった!とかすぐにわかりますからね。
陽 そうなると、からだを使うことがほんとうにおもしろくなるんですよ。
タ そういえば、陽紀先生は電車を待ったりする時間もぜんぜん苦痛じゃないと言ってましたよねえ。
陽 待つ時間と稽古を選り分けて別に考えたりしていない、ということなんですけどね。やることがたくさんあるから稽古ができない、と思っている自分がいるなら、「やることのなかに稽古をいれてしまえばそれでいい」わけですよ。
タ ウーム、なるほどですね! でも、考えてみれば、この日々是介護術では忙しさに追われる現場の方に役立ててもらおうと考えて、あえて「完成品としての介護術」を提案するのはやめよう、という考え方をとっているんですよね。
陽 はい、まさしく。指先の感覚から生まれるカラダのつながりということも、そこで完成して何かができるということではなくて、その感覚を介護のときに必要とされるさまざまな動作の中に生かしていくと、それまで苦労していたことが楽にできるようになったりしますよ、という提案なんです。感覚を経験しておくことで、いつでもそれを具体的な動作の中で確認したり、発展させていくことができますよ、ということです。
タ つまり、稽古のために特別の時間をとらなくてもいいような稽古、ということなんですよね。
陽 そうであってほしいなあという期待もこめていますが(笑)。
タ でもほんとうに指先や足指の感覚といったことは、いつでもどこでも稽古できることですから、思ったらすぐに稽古してみるのがいいですね。
陽 わたしはずっとそうなので何が稽古かよくわからなくなっています(笑)
タ いつか、ぼくもそうなりたいものです……(笑)
◆ Profile ◆
甲野陽紀(こうの•はるのり)
身体技法研究家。東京•多摩市生まれ。高校卒業後、「古武術介護」の提案者としても知られる武術研究家の父、甲野善紀氏の補佐役として各地の講習会などに同行する中で、ささいな動きの違いから感覚がさまざまに変わっていくカラダの不思議さ、奥深さを改めて実感し、特定の方法やジャンルによらない独自の視点からの身体技法の研究を始める。見る、触れる、曲げる、といった、わたしたちが日々、何気なく行っている動作からカラダを見つめ直すことで新しい感覚が生まれていく“発見の体験”は、多くの方の共感を呼び、全国各地の講習会、講演会などで活躍中。スポーツや武術、音楽、医療、介護、運動嫌いの方のための身体講座まで、講座のテーマは幅広く開かれており、ファン層も多彩。都内では、朝日カルチャーセンター新宿•湘南、よみうりカルチャー自由が丘などで定期的に講習会を開催している。日々のくわしい活動はオフィシャルウエブサイトへ。
http://hkhp.p2.bindsite.jp/index.html
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