震度7の地震が2回もあり、大きな余震が続いている熊本地震。高齢者や障害者を受け入れるはずの「福祉避難所」が、すぐには機能しない状態だったといいます(*1)。なぜでしょうか。
地域で知られていない福祉避難所の存在
福祉避難所は、自治体ごとに福祉施設や公共施設などが指定されています。特別養護老人ホームが指定されることも多いですよね。しかし実際、災害が起きると、交替勤務の職員が出勤できなくて人手不足になったり、施設自体も被災したり。平常時に考えていたような対応が難しくなることは多々あります。
また、新聞記事にも書かれていましたが、最寄りの福祉避難所がどこにあるのかが周知されていなければ、被災者は身を寄せることができません。どこが福祉避難所であるかが十分に周知されていないため、住民だけでなく、介護関係者も把握できていない地域もあるようです。
ほかにも、自宅から離れた場所の大型施設より、身近にあってすぐに駆けつけられるなじみの場所のほうが、安心して駆けこみやすい、という理由もありそうです。
福祉避難所を指定しておけば安心、というのは間違い
小規模多機能型居宅介護の事業所を運営する、ある事業者は、小規模多機能を福祉避難所にすべきだといいます。なぜなら、地域に密着した存在で、地域の事情を把握している。泊まれるスペースも確保されている。夜勤職員がいる、あるいは夜間帯にすぐに連絡が取れる体制が整えられている。そんな小規模多機能の事業所なら、地域の高齢者や障害者を受け入れやすいというのです。
もちろん、多数の受け入れは困難かもしれません。しかし、そうしたことも見越して、各地域に小規模多機能の事業所を開設しておけば、地域ごとに細やかに対応できます。その小規模多機能が本当に地域に密着し、地域住民と交流していれば、地域の力を借りながら被災した高齢者や障害者を支えていける。その事業者はそう指摘していました。
確かに、そうした事業所が地域にあれば安心ですね。
つまり、「福祉避難所」は、指定しておけばいいということではないのです。大切なのは、実際の場面で地域住民、専門職と連携が取れる体制になっているかどうか。避難を希望する高齢者や障害者を受け入れられる体制を作れているかどうか。
今回の熊本地震でも、病院、施設、ケアマネジャーなどの連携が取れている地域は、スムーズに病院や施設への在宅要介護者の受け入れが進んだようです。日頃の連携が大切だと改めて感じた、という声も聞きました。
被災地では介護職のボランティアを求めている
それにしても、東日本大震災の時もそうでしたが、今回の熊本でも、ケアマネジャーや介護職のプロ意識の高さには頭が下がる思いがします。
自分自身が被災していても、高齢者の生活を守らなくては、と活動。ケアマネジャーは安否確認に奔走し、施設職員は押し寄せる要介護の避難者を受け入れ、支援に奮闘しています。
政府も最初の地震の翌日、4月15日には、災害救助法の適用を決定。平成25年に定められた下記の内容を改めて通知しています(*2)。
・避難所など、自宅以外の場所でもサービスを受けられる
・特別養護老人ホームや小規模多機能、ショートステイなどは、定員を超過しての利用でも減算しない
・被災して職員が確保できないまま運営していても減算しない
・介護サービスの利用者負担が支払えない人は免除する
これにより、ショートステイの利用などがスムーズに進んだと言います。
ただ、残念なのは、介護職のボランティアが足りないこと。一般ボランティアの受け入れは進んでいますが、生活上の支援が必要な高齢者や障害者をケアできる専門職ボランティアが不足しているというのです。自分も被災しながら支援に当たっている介護職にも休息が必要です。入所施設を併設しているデイサービスなどでは、入所施設での被災者の受け入れ対応に職員を充てているため、休止が続いているところもあります。そうしたところでは、介護職のボランティアを強く求めています。
日本介護福祉士会では、災害救援ボランティアの派遣を始めています(*3)。交通費、宿泊費は介護福祉士会が負担するとのこと。
専門性を発揮した支援を、是非被災地で提供していただきたいと思います。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*1 熊本地震 福祉避難所機能せず 利用わずか104人 (毎日新聞2016年4月25日)
*2 災害により被災した要介護高齢者等への対応について (厚生労働省 平成28年4月15日)
*3 災害救援ボランティアの派遣について (日本介護福祉士会)