介護業界の「効率改善」、まずは実地指導のやり方の改善から
自治体によって異なる、いわゆる“ローカルルール”による介護現場の業務負担の問題。
厚生労働省主導で改善のための取り組みが始まったことは、すでに
「介護職は介護業務に専念を!事務処理の負担は、どうしたら軽減できる?」でお知らせしたとおりです。
早速、2019年5月に、
訪問介護、通所介護(デイサービス)、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、居宅介護支援事業所、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、介護老人保健施設、訪問看護の7サービスについて、
実地指導の標準化、効率化に関する指針が示されました(*)。
上記7サービス以外のサービスについては、示された指針を参考に、各自治体で確認項目と文書を検討することとされています。
今回出された指針で示している実地指導に関する主な内容は、下記の通りです。
●
標準の確認項目と確認する文書を明示。それ以外の項目、文書については、特別な理由がない限り、確認や提示を求めない。
●確認項目を減らしたことで、実地指導にかける
時間を短縮。1日に複数の事業所を実地指導。実施指導実施の頻度を上げる。
●実地指導は最低でも指定有効期間の間に1回以上。その達成が難しい場合は、
問題のない事業所は集団指導のみとすることを検討。
●実地指導の
1ヶ月前には、事業所に指導に行くことを通知。当日の作業の流れについても大まかに伝える。
●
利用者の記録を確認する場合は、原則として
3名分以内。居宅介護支援事業所はケアマネジャー1人あたり1~2名分以内。
●確認する文書は、原則、実地指導の
前年度から直近の実績まで。提出を求める資料の部数は1部のみ。新規指定時など、自治体に過去提出済みの文書については、改めての提出を求めない。
●実地指導を担当する自治体職員の主観に基づく指導や、前回指導したことと根拠なく大きく食い違う指導をしない。
●
高圧的な言動は控え、よりよいケアを促すための助言を、事業者と共通認識が得られるように行う。
●効果的な取り組みを行っている事業所を積極的に評価する。
実地指導の手順だけでなく、指導に臨む自治体職員の心構えにも触れているところは、評価できますね。
この指針に強制力はないものの、指針に従えば、事業者、自治体職員双方の負担軽減が図れます。効果的な活用が期待されます。
実地指導は自治体職員とのコミュニケーションのチャンス!
そもそも実地指導は、厚生労働省が2007年に示した「介護保険施設等実地指導マニュアル」(2010年に改訂)を参考に、各自治体の判断で6年間の指定期間に概ね1回、行われることになっています。
しかし、実際には、開設以来1回も実地指導を受けたことがないという声をよく聞きますね。
実施指導は、受ける側も準備に相当の時間をとられますが、指導する自治体職員の負担も大きいもの。限られた人数の担当職員で、圏域内のすべての事業所を6年に1回指導して回るのは、あまり現実的ではありません。
今回の指針では、集団指導と併せて、一層効率的に実地指導を行うことを自治体に求めています。
自治体職員は概ね3年ごとに異動があり、連携がとりにくいと言われます。一定期間での異動には批判の声が多いですが、これにより、自治体内に介護や介護保険、高齢者のことを理解している人が増えていくと考えることもできます。
事業者からすれば、大きな負担になる実地指導ですが、自治体職員に自事業所のこと、介護の実態を理解してもらういい機会。
そんな風に考え、対応できるとよいのかもしれません。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*介護保険最新情報Vol.730 「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」(令和元年5月30日)