「この薬、本当にいるのかな」と思ったことはありませんか?
加齢により、体の不調が増えがちな高齢者は、複数の医療機関に通院するケースが多いものです。通院するそれぞれの医療機関からは、それぞれの症状に応じた薬が処方されます。
そうして処方を受けた、たくさんの薬を服用することで、かえって体に悪い影響が出る
「多剤服用(ポリファーマシー)」が問題になっています(*)。
介護職の方も、「薬を飲むだけでおなかがいっぱいになる」と、高齢者がつぶやくのを聞いたことがあるのではないでしょうか。
そして、服薬の確認をしながら、「この薬、本当にいるのかな?」と感じたことがある方も多いことと思います。
介護職には、なかなか手を出しにくい薬の問題。
国も改善に向けての仕組み作りは進めています。
一人1冊「お薬手帳」を持つことが推奨されるようになったのも、「かかりつけ薬剤師」制度ができたのも、多剤服用や、複数の医療機関から同じ効能の薬が処方される重複処方をなくそうという意図があってのことです。
薬に関する問題点は改善する?「かかりつけ薬剤師」とは
「かかりつけ薬剤師」が果たす役割は下記の3つです。
●1人の患者の服薬状況を1人の薬剤師が継続的に管理し、飲み合わせや副作用、重複服用がないかなどをチェックする
●24時間対応で薬を処方したり、薬の相談に応じたり、自宅を訪問して残っている薬の確認をしたりする
●処方医や医療機関と患者との間に立ち、医師への処方の提案や副作用などの情報提供、患者への受診の促しなどを行う
「かかりつけ薬剤師」が増えて十分に機能するようになれば、重複服用や多剤服用の問題は徐々に減っていきそうに思えます。
しかし、かかりつけ薬剤師になるには、勤務時間や経験などに厳しい規定があり、すべての薬剤師がなれるわけではありません。「かかりつけ薬剤師」の普及は、そう簡単ではないようです。
高齢者の生活と体調を見守る介護職こそ、薬についてよく見てほしい
それでは、こうした薬の問題の改善に対して、介護職ができることは何でしょうか。
ある介護施設では、介護職が嘱託医と連携して、
処方薬の整理に取り組んだことがありました。
医師が処方を変更したり、薬を減らしたりしたときの、利用者の心身状態の変化を介護職がモニタリングし、それを医師に報告します。
報告を受けた医師は、状態の変化からさらに減薬が可能か、現状維持か、元通りの処方に戻すかを判断します。
介護職によるモニタリングと、医師による細かな処方調整を重ねることで、
不必要な薬を洗い出して、服用する薬を減らすことにつながったといいます。
嘱託医との連携による減薬の取り組みにあたり、この介護施設では介護職が
入居者がよく服用している薬についての勉強会を行ったそうです。
薬の名前は聞いたことがあっても、どのような効能の薬かを詳しく知っている介護職は多くありません。専門外のことですから当然のことですが、薬の効果のモニタリングを行うには、最低限の知識は必要だと、この介護施設では考えたのです。
専門外のことも学んでいこうというこうした姿勢は大切です。
「薬は自分のプライドをかけて処方している」と言う医師もあり、処方内容については医師同士であってもコメントしづらいと言います。当然、介護職から医師に意見をすることはできません。
一方で、医師は処方した薬の効果を、多くの場合、患者の状態と患者やその家族からの報告でしか確認できません。適切に報告ができない本人や家族の場合、処方が適切かどうかの判断に、もどかしさを感じる医師は少なくないようです。
だからこそ、
しっかり服薬できているか、薬の処方によって、
心身にどのような変化が出たかなど、介護職が具体的な事実を医師に伝えることは大きな意味があります。
医師に提供した情報が正確で具体的であれば、それが薬の影響なのか、病状の変化によるものなのか、服薬漏れなのかなどを、医師は的確に判断することができるからです。
高齢者の日々の生活を丁寧に見つめている介護職には、
小さな変化にも気づくことができる“目”があります。
医師と連携し、その目をいかして、多剤服用や重複服用の是正に貢献してもらえればと思います。
<文:介護福祉ライター・社会福祉士・公認心理師・臨床心理士 宮下公美子>
*脱・多すぎる薬(上)高齢者の服薬 連携管理を(日本経済新聞 2019年10月2日)