介護報酬改定「人材確保」「人員基準」「現場革新」が話題に
厚労省が横断的なテーマに掲げたのは「介護人材の確保・介護現場の革新」と「制度の安定性・持続可能性の確保」の2つ。
「介護人材の確保」では、今後さらに生産年齢人口の減少が進み、介護人材の確保が困難になる中、新規人材の流入と離職防止、業務効率化をはかる観点が重要だとした。
具体的には、▽人員配置基準等▽介護職員の処遇改善▽サービス提供体制強化加算等▽ハラスメント対策▽介護現場の革新▽文書に係る負担軽減――について現状と課題・論点を整理し、広く意見を求めた。
《現場革新》機器拡大で夜勤 加算の活用を模索
介護職員1人1日あたりの見守り時間の変化
介護現場の革新では、生産性向上を喫緊の課題とし「介護助手や介護ロボット、ICT等のテクノロジーの活用で介護サービスの質の向上、業務効率化を推進することが重要」と明記。18年改定で見守り機器の導入による夜勤職員配置加算の人員緩和を認めたことを踏まえ、インカムなど対象機器の拡大や、特養(地域密着型含む)と短期入所生活介護のみとしている対象事業所の拡大等について検討を促した。
その場で同省は、介護現場革新会議が昨年度行ったパイロット事業の成果を報告。三重県で3施設が実施した「インカムの活用」では▽ハンズフリーで作業しながら連絡ができる▽一度に複数の職員とコミュニケーションできチームケアが効率化▽使い方が簡単で比較的安価なため導入のハードルが低い――などにより、利用者の見守りに割ける時間が3割増えた。
業務効率化の取り組みそのものは概ね賛同を得られたが、「効率化で捻出した時間を専門職のケアに充てるという視点を忘れてはならない。人を減らすことが目的ではない」(石田路子・高齢社会をよくする女性の会理事)など、安易な人員基準緩和を行わないよう釘を刺す発言もみられた。
また、機器・ICTの導入は介護報酬で評価するよりも、地域医療介護総合確保基金などの既存制度をより活用し、初期費用の支援をはかることも指摘された。
《人員基準等》育児・介護休業時の常勤扱い、医療と整合へ
育休・介護休暇中も常勤扱いに
診療報酬では、常勤の者が育児や介護で休業を取得する場合、代わりに同等の資質を有する複数非常勤職員を常勤換算することで人員基準を満たすことが可能。さらに、育児・介護休業法に基づく短時間勤務制度を利用する場合、週30時間以上の勤務で常勤が認められ、常勤換算上「1」でカウントできる。委員からは、介護報酬でも同様の対応を行い離職防止に努めるべきとの意見が相次いだ。
また、現行の人員基準については自治体で解釈が分かれる、いわゆる「ローカルルール」が発生している現状も同省は報告。例えば、各サービスの管理者は常勤・専従を基本としつつ「管理上支障がない場合、同一事業所の他職務、または同一敷地内にある他事業所等の兼務」を可能とするが、「兼務を2つまでとし、2ユニット管理者は介護業務を兼務できない」と制限を設ける自治体がある。「報酬返還等の多大なロスも出ている」(小泉立志委員・全国老人福祉施設協議会理事)など、解釈の明確化等を国が示すよう指摘がなされた。
《処遇改善》加算算定9割超 「基本報酬化」要望も
処遇改善加算はどうなる?
介護職員の月平均賃金は19年度で28.8万円。5年前より3.2万円アップしているが、全産業平均(37.3万円)とは8.5万円の開きがある。
介護職員処遇改善加算は、今年3月時点で91.7%の事業所がⅠ~Ⅲを算定。昨年10月に創設された特定介護職員等処遇改善加算はⅠ・Ⅱあわせて59.4%の事業所が算定しており、徐々にその割合を伸ばしている。
一方、18年改定で「今後廃止予定」とされた処遇改善加算Ⅳ・Ⅴは0.7%で減少。同省は「Ⅰ~Ⅲへの移行が進んでいる」とし、委員からも次期改定時の廃止が妥当だとする意見で落ち着いた。
ただ、同時に処遇改善加算そのものの継続に疑問を呈する声も複数。「書類業務の簡素化も必要。基本報酬への組み込みをそろそろ検討しなければならない」(今井準幸・民間介護事業推進委員会代表委員)と、業務負担の観点からも基本報酬化への提案がなされた。
<シルバー産業新聞 10月10日号>