介護保険の枠組みの中で介護をとらえるのではなく、真のニーズをとらえたケアを実践している野間康彰さん。まさにキラキラと輝く「情熱かいごびと」です。2回目のインタビューではその真髄に迫り、地域を見据える視点を教えてもらいました。
○●○ プロフィール ○●○
野間康彰(のま・やすあき)さん/高齢者地域密着型サービス施設ゆらり大和施設長
1972年生まれ。高校卒業後、働きながら予備校に通うが進学を断念、以後5年間はフリーター的な生活を送る。23歳のときに訪問介護の仕事を始め、介護の世界に。その後、介護福祉士などの資格を取得し、いくつかの施設立ち上げや運営に関わり、神奈川県大和市の現施設「ゆらり大和」(認知症のグループホームと小規模多機能型居宅介護事業所)の管理者から施設長に。認知症当事者と走るリレーマラソン「RUN伴」の町田市から御殿場にかけての100kmを昨年、今年と2年間、主体となって担当し、支えた。
高齢者地域密着型サービス施設ゆらり大和ホームページ
人と人とのネットワークが社会を変える
――訪問介護のヘルパーをスタートに、今の施設長職に至る間には、どのような経緯があったのでしょうか?
仕事をするうちに知り合いになった方に誘っていただいて、認知症デイサービスの立ち上げを手伝いました。訪問ヘルパーと兼務していた期間もありましたね。また、神奈川県の湘南のあたりで認知症グループホームを立ち上げるというので参加をしたら、いろいろないきさつがあって、結局有料老人ホームになってしまったことも……。
社会福祉士の資格を取るために学校に通った時期もありました。その後、小規模多機能型居宅介護事業所とグループホームを併設した事業所の管理者となり、そこで3年半ぐらい勤務したでしょうか。湘南の藤沢、茅ヶ崎近辺で勤務していた時期が長いので、この地域の同業の人たちとの強いネットワークができました。
彼らと話していていると、自分の事業所を超えたつながりがいかに大切か、わかってきます。それで、3社合同で求人広告を出したり、勉強会をしたりしていました。セミナーなども合同開催してきました。懇意の飲食店を借りて開催し、「お寿司を食べられるから介護のセミナーに来ませんか?」なんて呼び込みもして(笑)。そうやって広げていくうち、当初、セミナーを開催しても4人しか来なかったのに、今は300人の参加者が来てくれます。ネットワークの大切さを実感しています。
――当時、目指していたことはなんですか?
介護の枠を超えた、地域づくりです。介護は一方通行ではありません。高齢者の方がいてこの国が成り立ち、自分も支えられている。お互いに支え合う、そしてみんなが支え合う社会をつくろうよ、といつも話していました。
仲間から、教育の世界に飛び出したり、議員になったりする人もいますよ。この社会をもっといい環境に変えたい、という強い思いが、私たちを突き動かしました。けれど、活動を続けているうち、当時在籍していた事業所から「地域づくりもいいんだけれど、うちの事業所のことももっとアピールしてくれないか」「3事業所合同の説明会なら、うちの説明を長く」などと、言われたこともあって(笑)。
身の振り方をどうしようかと思っていたら、今の事業所の社長と、異業種セミナーで知り合いました。それで、「湘南でやっていることを、大和市でやってほしい。どんどん地域づくりを実行してくれ」と言われて、今の事業所に来て、この10月から施設長になりました。もちろん今も、「だれにとっても快適な地域づくり」を目標にしています。
「RUN伴」も地域づくりのひとつのきっかけに
「RUN伴」沿道での応援の様子。暗くなってもランナーをあたたかく迎える。
――「RUN伴(らんとも)」も地域づくりのひとつの形でしょうか?
そうですね。NPO法人の認知症フレンドシップクラブが2011年から開催しているイベントなのですが、この事務局に友人がいまして。認知症の人と家族、支援者たちで1つのたすきをつなぎ、走るイベントで、今年は全国で2500kmをつなぎました。
私が担当したのは、町田から御殿場までの100km。認知症の人や家族の思いを知ってもらい、多くの人が関わっていける地域づくりを目指して、たくさんのボランティアや他事業所の人たちと連携しながら走りました。ルートや走る人の組み合わせ、スケジュールづくりなど、3カ月の準備期間があってもなかなか大変なんですけれど、地域づくりの次の一歩になり、認知症の方々が楽しめれば、という思いでやっています。
3人ひと組で走るのですが、昨年は10チームだったのが、今年は25チーム。大和市の社会福祉協議会や異業種の方々もたくさん参加してくださり、うれしい限りです。こうやって顔見知りになり、協力し合うことが、住みやすさにつながっていくのだと信じています。
――沿道の整備や周辺住民への説明なども大変ですよね。
認知症の人、家族、支援者、一般の人…「RUN伴」の輪は、大きく広がっていく。
商店街を一軒一軒回って挨拶をしました。そこから、イベントに協力してくれ、ポスターを貼ってくださったり、参加を考えてくださるなど、さまざまな交流も生まれています。
これからは、介護に携わらないで生きていける人はひとりもいない社会になると思います。だからこそ、地域を巻き込むこうしたイベントは大事だと思っています。
うちの事業所には、小学校の総合学習で小学生が訪れますし、建物の前が通学路になっているので、お互いに手を振り合うこともあります。セラピー犬もいますので、犬をきっかけに会話が生まれることも期待しています。子どものうちから、介護ってどういうことなのか、肌で感じてもらえるといいですよね。
次回は、施設長をしている職場の理想の形について語っていただきます。