看護師として病院や老人ホームに勤務した後、ハンドセラピストとして独立。山本さんは大きな方向転換をしました。それはご自分が目指す、「人への関わり方」の理想を実現するものだったのだと思います。3回目の今回は、山本さんがハンドセラピストとして仕事をする中で感じたことをお話いただきます。山本さんの柔らかく、そして熱い気持ちが伝わってきます。
○●○ プロフィール ○●○
山本千鶴子(やまもと・ちづこ)さん/幸(高)齡者ハンドセラピスト
看護専門学校卒業後、病院の神経内科で看護師として5年務め、結婚。ご主人の転勤に伴って静岡県に移り、訪問看護師に。訪問看護のおもしろさを知り、第一子出産後に介護支援専門員の資格を取得。第二子出産と育児を考え、その後は有料老人ホームの看護師として働く。が、高齢者と日々接する中、高齢者に正面から向き合って触れたいと考え、ハンドマッサージを学び、独立。ハンドセラピストとなる。自ら老人ホームに赴き施術するほか、ハンドマッサージの教室を主宰し、後進の指導にも務める。
幸(高)齢者ハンドセラピスト~ハンドケアはハートケア~
「手」のマッサージならやさしく高齢者と向き合える
はじめてハンドケアセミナーの講師をしたときのひとコマ。講義を受ける人たちの表情も穏やかに
――利用者様に触れるコミュニケーションとして、「手」のアロママッサージを始めたのは、なぜでしょうか?
エステみたいに機械を使って大がかりにやるのは利用者様の負担になるからいやだし、足のマッサージだと「処置」のような感じで、看護師のケアに近い気がして気持ちが乗らなくて。でも、手なら服も脱がず、準備もいらずに触れ合えます。そして、マッサージをしながら、向き合ってお話をうかがうことができるのがいいですよね。手は脳へのアプローチとしても重要視されていて、認知症の方のケアにもアロマテラピー・ハンドマッサージは効果的と言われているようです。
アロマテラピーを学んだ理由は、手に触れるコミュニケーションと同時に、嗅覚からもリラックスに訴えかけることに惹かれたからです。でもいまは、香りを重要視しているわけではなく、やはり手に触れさせていただくことが大事だと思っています。向き合って手を包んでいるその時間が、貴重なんですね。
――どんなふうにマッサージするんですか?
私たちは理学療法士ではないので、関節を動かすようなケアはしません。包み込むことを重視し、やさしく触れる関係を作っています。どうマッサージすれば心地よいのかは、ひとりひとり違いますので、利用者様に教わりながら、施術をしています。
――老人ホームに趣いて利用者様ひとりずつマッサージするのですか?
そうですね、それが私の仕事の中心かな。みなさんが集まるレクリエーションの時間などを利用して、おひとりずつ触れていきます。また、後進を育てるため、ハンドセラピストになりたい方に、マッサージのしかたや創業のしかたなどを伝えています。施設の職員さんにもお伝えしています。すると、私が行かなくても、利用者様にハンドマッサージをして差し上げることができます。
ハンドマッサージをやりたい人がどんどん出てきて、日本中のお年寄りがいやされるといいな、と思っています。独立して4年になりますが、実際に、私のようなハンドセラピストはかなり増えています。
じわっと涙が出てくるわけは…
向き合って話をゆっくりと聴きながら施術する時間が尊い
――肩書きの始めに高(幸)齢者とあります。あえて高齢者だけをマッサージすると決めているのでしょうか?
独立するときに、ターゲットをはっきりさせておいたほうがいい、と言われて、高齢者が幸せになるようにとの願いを込めてつけた肩書きです。
若い人に施術しないと決めているわけではありません。ただ、私はお年寄りにハンドマッサージをするのが好きなんです。若い人をやっても、なんというか、心が震えないんですよね。高齢者の方だと、マッサージしているうちにグッときて、思わず涙が出てしまうことがあるんです。初対面の方でも、そうなんです。私の仲間も、同じようなことを言っています。
――なぜ、高齢者の方だと気持ちが震えるんですか?
なぜだろう……、お年寄りは、欲がないですよね。魂のまま、そこに存在しているだけ、といいますか。こちらに求めてくるものもないし、とてもピュアにフラットにその場にいてくださるんです。若い人だと、「お金を払う価値のあるマッサージであってほしい」みたいに思っているだろうと、感じてしまう。そうなると、こちらも、「お金をいただいた分のサービスをしなければ」、という考え方になってしまって。そういう損得の駆け引きのようなものが、どうしても生まれてしまうんですよね。それがないのが、お年寄りとの関係の、尊いところだと思うのです。
手を差し出したら、包んでくれたから、意味など考えずに、「ありがとう」って言う。お年寄りって、そういう方々が多いですよね。私たちのことを大きな愛で、まるごと受け止めてくださるんですよね。
だから、ハンドマッサージを「してあげる」なんて、とんでもない。むしろ、手に触れさせていただいて、自分の心の栄養にさせてもらって、高齢者の方に施術をさせていただいている、という感じですね。高齢者の介護を天職だと思っている方は、きっと同じような感覚をお持ちだと思うんです。おじいちゃん、おばあちゃんと接する仕事なんて楽しいの? と疑問に思う人もいるでしょうし、お年寄りに「やってあげる仕事でしょ」と思っている人もいるかもしれません。でも、そうじゃないんです。お世話をして差し上げているつもりで向き合っているうちに、最終的には、「懐を借りているのは私のほうだった」と思えてくる。そこが、高齢者の方々と触れ合う仕事の尊さなんですよね。
高齢者の方の「魂の本質に触れたい!」という思いが強いです。その方の本質に触れた時に涙があふれるんです。教えることもいいですが、やはり基本は、「触れる」こと、と思うのは、それが理由なんですよね。「魂を感じるタッチング」を目指して、今の仕事を続けていきたい。それを私だけじゃなくて、多くの人に感じてもらいたいと、思っています。
最終回の次回は、転職する人へのメッセージをお伝えします。
介護求人ナビの求人数は業界最大級! エリア・職種・事業所の種類など、さまざまな条件で検索できます