「介護を受けて生活している人に心地よく楽しめる音楽の場を提供する」を理念にリリムジカを立ち上げた管偉辰さん。高齢者に「音楽をきっかけに、人生に希望を持ってほしい」という思いが強まるほどに、事業が好転してきます。今回は、「介護と音楽」について、管さんに熱く語ってもらいます!
○●○ プロフィール ○●○
管偉辰(かん・いたつ)さん/株式会社リリムジカ 代表取締役 共同代表
1986年、東京都生まれ。台湾人の両親のもとに生まれ、日本人として生活する。一橋大学商学部在学中から起業家を志す。2008年、創業時代表の柴田萌さんと共に株式会社リリムジカを設立。2011年に柴田さんと交代して代表取締役に就任。プログラムを実施する介護施設の開拓やミュージックファシリテーターの後方支援に尽力。
株式会社リリムジカ
音楽は場をひとつにしていく
デイサービスの利用者さんと歌う
――ビジネス・パートナーの柴田萌さんとの出会いが、今の管さんのスタンスを作ったとも言えますよね。柴田さんと会う前は、音楽は管さんにとってどういうものでしたか?
15歳までピアノを習っていたものの、特別に好きでやめられない、というほどのものではなく、ライブやコンサートに一生懸命に行ったりするような若者でもなく。もし僕が柴田に出会わずに年をとったら、「みんなと歌なんて歌わないよ」という男性利用者さんみたいな感じだったと思います(笑)。
けれどプログラムの現場に同行すると、「やはり音楽は波だ」と感じます。「私たちが発した音楽が参加者に届く。参加者の心が共鳴する。参加者から、発信。私たちに届く。共鳴しながら波が大きくなっていく。空間がひとつになる。」リリムジカを立ち上げてから何度もこの感覚を味わってきました。「感動とはこういうことなんだ」と実感します。
――音楽が、どのように場を変えるんですか?
それまで、何をしてもつまらなそうだった人が、リリムジカのプログラムで、いきいきと歌ったり演奏したりして、その笑顔が全体に広まっていき、場がものすごく希望に満ちたものになる。まさに波のように希望や明るさが広がっていきます。音楽ってすごいな、と思う瞬間です。
認知症で言葉があまり出なくても、音楽は楽しめる、という方も多くいらっしゃいます。昔歌った歌を思い出して、思わずくちずさむ方、リズムに乗って楽器を鳴らす方。ご参加者に「いろいろ忘れてしまったけれど、こんなに歌えると思わなかった」と言われたこともあります。こういう言葉、そして笑顔に触れることが、嬉しいです。
2012年から、僕らは自分たちのプログラムを「音楽療法」と呼ばないことにしました。僕らのプログラムは、病気を治すわけではないので。
でも、僕らのプログラムは、ご参加者が「希望」を持てるようにできます。プログラムを楽しみにしてくださる方は、「あと2週間したらまた参加できる。それまで楽しみに待っていよう」と思ってくださる。これは「2週間後にディズニーランドに行くから、ちょっと仕事がんばろう」と思うのと、似ている気がします。人生の楽しみを持つ、楽しみを待つ時間も楽しむ。
だから、僕らは、その場で音楽を担当するスタッフを「ミュージックファシリテーター」と呼んでいます。ただの演奏家ではない。参加型の音楽プログラムを作り出し、だれもが楽しめる音楽の「場」を作る人、という意味です。
「ワン・ダウン」は悲しい
音楽プログラム中、利用者にもミュージックファシリテーターにも笑顔があふれる
――音楽は、認知症の人でも、施設長でも介護職員でも、学者でも会社の社長さんでも、肩書き関係なく楽しめるものですよね。
そのとおりです。僕は、よく「ワン・ダウン」という言葉を使います。(ワン・ダウンポジション=一段下がった立場という意味)
介護を受ける人は、介護する人より一段下にいるように感じがちです。利用者さんがつい「すみません」と言ってしまうのはそのあらわれです。ただ、ずっとワン・ダウンにいるのはつらい。でも、音楽の場では誰もが対等でいられる。「すみません」「悪いね」ではなく、「楽しいね」「気持ちいいね」となる。
――音楽と介護の融合は、かけがえのないものですね。
そうですね。生きている喜びを感じ、魂を呼び起こすものだと思います。プログラムに同行するたびに、音楽の力の大きさを感じます。
次回は「介護現場での音楽はビジネスになるのか」をテーマに語っていただきます。
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