毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「施設入居者の携帯電話に残された奇跡」という話題について紹介します。
介護スタッフの携帯電話に、見知らぬ番号から着信が…
関西のある介護施設で長く働く女性・Aさんのもとに、ある日、見知らぬ番号の携帯から電話がかかってきた。
Aさんが電話に出ると、相手は「Y田ですが…」とのこと。
Y田と名乗る人物が、Aさんに電話をかけた経緯は以下の通りだった。
Y田サチさんは90代になっても一人暮らしをしていたが、ついに子供から施設に入るよう促された。サチさんは施設への入居を大変渋ったため、息子のNさんは、サチさんが寂しくないようにと、子供や孫たちの電話番号を登録した携帯電話をサチさんに渡し、寂しかったらいつでも電話をかけるようサチさんに告げた。
謎の“ひらがな”で、アドレス登録
しかしサチさんは施設入居後1年ほどで、あっけなくこの世を去ってしまった。そこで、彼女の遺品を整理していると、孫のTさんがサチさんの携帯電話を発見。その通話履歴は子供や孫ばかりだったが、アドレスには「さいとう」「よしだ」といったひらがなの名前や、「あ」「やさしい」といった謎の名前が複数登録されていた。
Tさんが周りの親族に聞くと、みな「こんな名前は登録していない」という。そこで好奇心にかられたTさんが、ひらがなで登録された謎の電話番号に電話し、「Y田サチの携帯電話からかけているのですが…」と名乗ると、その相手は施設の職員だった。それがAさんだったのだ。
実は、Aさんの勤めていた施設は、職員個人の携帯電話の番号を入居者に教えることは禁止していた。しかしAさんは、番号を教えて欲しいとせがむサチさんに自分の携帯番号を教えた。ただし、親族はその認識がなかったようだが、サチさんは最晩年、かなり認知症が進んでいて、どうしても人の名前を覚えることができなかったようで、それらの人は「あ」や「やさしい」という名前で登録されたようだ。
「やさしい」の正体は…
AさんとTさんとの長い電話でそのようなことが判明すると、TさんはAさんに「あなたの名前は『やさしい』と登録されていました。ありがとうございました」と告げ、Aさんは電話口で号泣。
「人の名前が覚えられない」というのは、認知症の典型的な症状のひとつだが、そんなサチさんから「やさしい人」と認識されたことは、今でもAさんの心の糧になっているそうだ。
公開日:2015/5/11
最終更新日:2019/5/31