毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。今週は、「介護業界の人手不足が生む悲劇」という話題について紹介します。
人手不足の現場では、どんな教育を行っている?
絶対にあってはいけないことなのだが、人生の最終章を安らかに暮らせるはずの老人たちが暴力や虐待の危機に晒されることがある。
例えば、介護する家族が介護を必要とする高齢者に暴力を加えたり、介護職員が介護施設の入居者を虐待したりといった事件。
言わずもがなだが、入居者や利用者に対して暴力や虐待行為などを行ってしまう介護職員はごくごく少数だ。
では、どんな状況になると、暴力や虐待行為が起こってしまうのだろうか。介護現場で働く介護士に話を聞くと、こんな構図があるのではないか、という。
そこは、人手不足が甚だしい介護施設。スタッフにゆっくり教育を施す余裕はないため、“働いてもらいながら育てている”。たとえ介護の資格を持っていても、介護の仕事は現場での経験が命。新人スタッフには覚えることが山ほどあるが、教える側とて手取り足取り教えているヒマはない。しかも人の命を預かるがゆえに、時には言葉が荒くなることもある。
「何やってんの!」
「さっきも言ったでしょ!」
「何度も同じこと言わせないで!」
「自分の頭で考えて!」
といったセリフが飛び出してしまい、教える方は覚えの悪い新人にイライラ。教えられる側の新人は「そんなにいっぺんに色々なことを覚えられない」とイライラ。そしてそのイライラが、高齢者に向かってしまうことも……。
つまり人手不足による余裕のなさも、虐待の原因の一つではないか、というのだ。もちろん、虐待が起こる原因はこれだけではない。しかし、数字を見ると確かに介護業界全体が人手不足であることも事実だ。
超高齢者社会に向けて、必要なのは…
2014年の有効求人倍率は、全産業が0.93倍なのに対し、介護分野は1.82倍。人手がまったく足りていない“売り手市場”だ。しかも、介護労働安定センターが今年8月に発表した数字によると、2013年10月~2014年9月までの訪問介護員と介護職員の離職率は16.5%。6人に1人は1年以内に入れ替わる計算だ(*)。
介護職員に話を聞くと、介護施設や介護職員の不祥事が報じられるたびに、まっとうに働く自分たちまで色眼鏡で見られてしまう。そして、世間からそんなキツイ仕事にはつきたくないと敬遠される…人手不足の悪循環だ。
これから先、高齢化がますます進行することが確実な日本。介護業界の人手不足が簡単に解消される見込みはない。その状況下で、どのように事業所を運営していくのか。
人手を増やす採用も重要だが、もう一つ、スタッフの教育の仕方も重要ではないか。教育次第でスタッフの生産性は変わる。また、仕事に向かう気持ちも変わる。
介護人材の「教育」も、このまま放置してはおけない介護業界の重要課題のひとつではないだろうか。
*介護労働の現状について 平成26年度介護労働実態調査<公益財団法人 介護労働安定センター>