毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「『慎重な言葉選び』の難しさ」という話題について紹介します。
冠婚葬祭業から介護職に転職!言葉遣いは完ぺきなヘルパー
あまりにズケズケと言いたいことを言えば、いつかトラブルになるのは目に見えているが、言葉を選びすぎれば、いつまで経っても人との距離が縮まらないのもこれまた事実。言葉の選び方の加減は非常に難しいものだ。
都内の訪問介護事業所でホームヘルパーとして働くナカザワさんは、言葉に気を付けすぎたがために利用者に避けられるという経験をしたことがあるという。
ナカザワさんはホームヘルパーとしては珍しい経歴の持ち主だ。
高校を卒業後に結婚式場に就職した彼女は、配膳、新郎新婦の身の回りの世話、日程や予算の相談など、結婚式に関連するあらゆる業務を担当。おめでたい席に立ち会える仕事にやりがいを感じていたが、数年後に異動を命じられた。
ナカザワさんが働いていた会社は冠婚葬祭業を総合的に営んでおり、彼女の異動先は葬祭業。華やかなブライダルの世界から一転して、旅立ちの場に配置転換された。
お葬式の場に立ち会うのも、それはそれでやりがいはあったというナカザワさんだが、やはりブライダルの華やかさを知ってしまった後だけに、不満があったそう。
そこで会社を辞め、改めてブライダル関係の仕事を探したものの、思うような就職先が見つからなかったために選んだのが、家の近所でスタッフ募集をしていたホームヘルパーの仕事だった。
これまでの社会人経験からも、人と触れ合うことには不安はなかったナカザワさんだったが、ホームヘルパーの仕事を始めた当初、利用者からの評判は今ひとつだったそうだ。
ナカザワさんがいう。
「私としては、葬祭業の経験でお年寄りとはたくさんコミュニケーションを取ってきましたし、結婚式もお葬式も言葉遣いには非常に気を使う仕事だったので、ヘルパーとして利用者さんと接するときの言葉選びも心配していませんでした。けれども結局それが“アダ”になってしまったんです。
例えば結婚式では、『切る』『別れる』『離れる』という言葉は禁句です。
お葬式では、不幸の連鎖を想像させるような『次々と』『続いて』『重ねて』といった言葉はNGです。
結婚式やお葬式での禁句が頭にあったため、ヘルパーになった私は勝手に頭を働かせて、利用者のお年寄りに『病気』『お墓』『お葬式』など、不安を感じさせるような言葉を使わないようにしていました」
確かにヘルパーの助けを必要としている人は、健康その他に不安がある人が多い。不安が生じるような話題を避けるのは賢明だ。
しかし結論を言えば、ナカザワさんの言葉の選び方が、利用者の不満の種になってしまったという。
利用者さんが不安にならない言葉を選んだつもりが…
「例えば、利用者の方がお墓の話をしてもなるべく話をそらしたり、病気のことを話しても『大丈夫、元気になりますよ』と励ましたり、私は常に優等生的な返答しかしていなかったんです。
そんなある日、利用者の女性に『アナタといるとつまらない』と言われてしまいました。
要するに『人生の残り時間はそんなに長くないのに、社交辞令みたいな会話をするのはもうまっぴら』ということです。
結局、お年寄りの関心があることは、お葬式や体が弱っていくこと、病気などに偏るのは当たり前です。
私の場合、利用者さんが関心のある話題ときちんと向き合わず、話題を避けようとすることに一生懸命気を使ってしまっていたので、利用者さんにとっては『つまらない』というセリフに繋がったのでしょうね」
人と触れ合うという意味では、ヘルパーの仕事も、結婚式やお葬式に関わる仕事も同じ。
“病気のこと”や“お墓のこと”、“死ぬこと”について、ヘルパーの方からわざわざ話題を持ち出す必要はないが、時には穏やかに、利用者さんと一緒に語ることも大切だと感じたナカザワさん。
ヘルパーとして利用者に寄り添うことの難しさを痛感するとともに、今では介護の仕事にやりがいを感じているそうだ。