結婚・出産後、お子さんが大きくなってからは、派遣で事務職を続けていたMさん。時給がよく、人にもうらやましがられる仕事でした。しかし、介護事務の資格を取って就いた仕事での経験から、自分には介護の仕事が合っている、とずっと思っていたそうです。そこから介護職の道へ…。あわただしかったり、人間関係がわずらわしかったりしても、介護の仕事が好き。その思いの原点は? そして、働く場を変えながら、介護にどんな未来を描くのでしょうか? 4回に分けて、Mさんの思いをお伝えします。
*M・Wさんの「私が転職した理由」…1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
M・Wさん(46歳)のプロフィール・転職経験
●介護業界歴…5年
●介護の仕事に就く前…靴メーカー販売促進担当、派遣事務職
●介護業界での転職回数…2回
●いままでの勤務先…訪問介護事業所、有料老人ホーム、デイサービス
●保有資格…医療事務、介護事務、介護福祉士
事務職より介護職、とずっと思っていた
独身時代は、靴メーカーの販売促進の仕事をしていましたが、結婚した相手が転勤族だったので、仕事を続けるのが難しく、退職しました。結婚後まもなく娘が生まれ、10年以上は専業主婦だったんです。けれど、子どもが大きくなるにつれ、「ひとりの人間として自立したいなぁ」と思うようになって。医療事務の資格を取って仕事につなげようと考えました。
医療事務の資格取得のための学校に行っていたとき、教官から「介護事務もついでに勉強しておくといいよ。これからは高齢化社会で、介護の時代。需要は必ず増えるから」と言われたんですね。なるほどと思い、介護事務も勉強し、派遣会社に登録して、国民健康保険連合会の事務を代行する仕事に就きました。介護の事業所が請求する介護保険点数に従って、支払いの手続きなどをするのです。支払業務に伴って、事業所と電話連絡をしたり、介護の制度について少し学んだり。それが、介護に関わるきっかけになりました。
その仕事を3年続け、次にまた派遣で事務をしている間にも、介護業界に関わりたいなぁ、という気持ちが高まって。それも、ヘルパーとして現場に出たいなぁと思い始めたんですね。周囲からは、「事務職のほうがラクでしょう?時給も段違いなんだから、転職する必要なんてないんじゃない?」と言われました。けれど、私にとっては、ヘルパーの仕事はすごく魅力的に思えました。
事務の仕事って、「間違いがないように数字を整える」ことが第一で、自分のやっていることがだれにどうつながっているのか、見えにくいですよね。でも、実際に利用者さんと関わる介護の仕事は、自分が体を動かし、気持ちを注げば、すぐ目の前の方がそれに応えてくださる。「役に立っている」と実感することができるし、役立つことをうれしく思えます。それに、ヘルパーの介護職なら資格を持って働けるので、自分の自信になると思えたんです。医療事務や介護事務の勉強はしたけれど、それで「プロ」という意識はあまり持てなくて。派遣会社の所属だったこともあるけれど、自分の代わりはいくらでもいる、という事務の仕事をいつまでも続けていたくない、と思っていました。
それで、派遣の事務の仕事をしている合間に、週末などを使ってヘルパー2級(現・介護職員初任者研修に相当)の資格を取り、東日本大震災を境目に事務の仕事をやめて、訪問介護事業所に所属しました。
利用者さんに、家事や育児を教えてもらって
訪問介護事業所は、介護求人のインターネットサイトで見つけました。仕事と家事を終えた夜に、パソコンに向かって探すのが、自分にとって一番いい方法だったんですよね。昼間は仕事を探すこともできないし、夜に自宅で求職できるのは、とても便利でした。
仕事先は、訪問介護事業所に絞っていました。ヘルパー2級の講習のときに、信頼できる教官が「訪問介護はとても勉強になる」と力説していたんです。
「訪問介護は1対1の介護。要望をよく聞き、個別にその人らしさを生かす支援ができます。利用者さんの暮らしの中に入っていくことで、深い関わりを持てるんです」と。
そこで、介護求人のインターネットサイトで、常勤で勤務できる事業所を探して応募したら、すぐに事業所からコンタクトをいただいて。後日、面接をして、あっという間に就職が決まりました。
教官が言われたとおり、訪問介護の仕事はとても勉強になるし、楽しかったですよ。訪問介護は、利用者さんのルールに従わないといけないから大変だ、と言う人もいるけれど、私はそんなふうには思わなかった。ベテランの主婦でもある利用者さんからは、掃除の仕方、料理の下ごしらえの仕方などをたくさん教わりました。また、私に中学生の子供がいることを知って、ご自分の子育て体験を語ってくださり、励ましてくださる方もいました。こういう交流ができることが、訪問介護の喜びです。気難しい方もいらっしゃいましたが、時間をかけてお付き合いすれば、だんだん仲良くなれる。そんな過程も楽しみながら、はじめての介護の仕事に充実感を感じていました。
次回は、有料老人ホームに転職するMさんの様子をお伝えします。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
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