介護業界でがんばる人たちの転職体験をお届けするこのコーナー。
長年勤務した介護老人保健施設(老健)から特別養護老人ホーム(特養)へ転職したE・Wさんの体験談を、全4回の連載で掲載します。
第3回では、老健に復職後、利用者さんのために奔走したEさんの姿と、老健でのケアに感じた悩みをお伝えします。
◆介護老人保健施設(正職員・主任)→特別養護老人ホーム(正職員)
E・Wさん(女性・42歳)
介護業界での経歴詳細
●介護老人保健施設(正職員・主任)(勤務期間:16年/月収約32万円+ボーナス約2.2か月分)
●特別養護老人ホーム(正職員)(勤務期間:3か月/月収約27万円+ボーナス約2か月分)
保有資格:介護福祉士
家族構成:夫、長男(22歳)、長女(17歳)
*E・Wさんの「転職 成功・失敗 体験談」…
1回目、
2回目(前回)はこちら
【老健の介護職とは】利用者さんの願いをかなえてあげたい!
子育てと仕事を両立させながら、復職後は突っ走ってきました。
職場の雰囲気がとてもよく、利用者さんともいい関係が築け、申し分のない職場でした。
ただ、介護老人保健施設(老健)では医療職が多く、介護職は少し身を引く形になります。
医療職は、利用者さんの健康的な数値を見て、大事をとって「それはダメ」「責任持てません」と、利用者さんの望みより生命を重んじます。
けれど、もし、この先それほど回復する見込みがないなら、大事をとるより、好きなことをしたほうがいいのでは、と思うのが介護職です。
介護保険制度でも、利用者さんの尊厳を守り、自立支援を促すことが謳われているのですから。
「医療が大事なのはわかりますが、介護の視点から利用者さんとどう関わり支援していきたいかも、受け入れてほしい」
私たち介護職は、そんなふうに看護師さんに伝え続けました。
当初は難色を示していましたが、時間が経過していくうちに思いが重なったように感じます。
「利用者さんの思いをかなえてあげてください」と言ってくれ、利用者さんには「ここの介護士さんたちはすごいのよ」なんて声掛けしてくれるようになりました。
【介護職としてのやりがい】利用者本位の成功体験を積み上げていく!
がん末期の利用者さんの願いは「お花見」
そうなると、ますます職員の気持ちがひとつになり、奇跡のようなことも起こりました。
乳がん末期の女性が入居されていたのですが、腕も指もむくんで腫れ、もう起き上がれない状態でした。
ある日その利用者さんが「私もお花見に行きたい」と。
看護師長さんや医師に相談すると、苦笑いしながら「何を言っても行くんでしょ?」と言い専門的な視点でのアドバイスをしてくれました。
介護職は、「どうしたらお花見に行けるだろう」と話し合いました。
まずは車いすに乗る練習から、徐々に時間を増やし外に散歩に行き、最終的にはもちろんバスでみんなと一緒にお花見に行きました。
余命僅かな利用者さんの希望を叶える、この日を飛び切りの思い出になる日にしようと、職員はみんながんばりました。
当日の朝、利用者さんは言いました。「外に出るんだからお化粧をしたい」。きれいにお化粧をした利用者さんの晴れやかな表情は今でも忘れられません。
その後、療養病床に移り数週間後、亡くなられたと、ご家族から告げられました。
ペースト食の利用者さんが、焼きそばを食べて復活?!
ターミナルを迎え、嚥下(えんげ)の状態が悪くなり、ペースト食しか食べられなかった利用者さんが、屋台の焼きそばが食べたいと言ったときも、屋台の作り手は介護職で、鉄板で刻む刻む。普通の焼きそばを細かくしてパックに入れ「はい、焼きそば一丁できあがり」と手渡す。
『大丈夫かな……』とみんなが心配していましたが、その利用者さんは職員の心配を吹き飛ばすように「なんだこの焼きそばはグズグズだなー」といいながら1パック完食しました。
そして翌朝、不思議なことが起きました。両上下肢のひどいむくみが改善されていたんです。
栄養失調からくるむくみだったのか……?
翌日から食事形態を見直し、その方は以後、とても元気になったのです。
そのような成功体験を重ね、チームはどんどん力をつけていきました。
復職して8年目には主任になり、私も大きなやりがいを感じて勤務していました。
【仕事に対する不満は?】完全にケアできない施設形態での悩み
そんなふうに利用者さんのために突っ走ってきたものの、ある時から急に、モチベーションが上がらなくなりました。
自分にできることの限界を感じたからだと思うのです。
老健は、入居中にリハビリをし、基本的に3カ月程度を目安に退去していただく。
加算の関係もあり、施設の運営のためには利用者さんの回転率をよくしなければならないことも。
心配を残したまま退去する利用者さんの背中を見ることも……。
また、退所した利用者さんのご家族から「ここではやらせてもらえたことも、新しい施設ではできないみたいでね、どんどん元気もなくなって寝たきり状態になってしまっているの」とお話を聞くこともありました。
【仕事の転機】自立支援の大切さを、外部研修で再確認!
老健でのケアに対して気力の失せていた私を見て、上司がどうにかモチベーションを上げようと「近くで有名な介護職の人の講演があるから聴きに行きませんか?」と誘ってくれました。
本来、うちの法人では外部研修は推奨していませんでした。
法人ならではの理念や技術と違うことを言われると現場が混乱するという理由です。
でも、私があまりにも無気力になっていたから、誘ってくれたのでしょうね。
そしてその講演はすばらしく、「こんなことで停滞している場合ではない」と思わせてくれたのです。
事務長も「すごくいい講演だった」と興奮し、ふたりで「この講師の方をうちの施設に呼んで、講演してもらおう」と企画しました。
当初は幹部に「何言っているんだ、外部講師なんてダメだ」と言われたのですが、「とにかくすばらしい、みんなにも聞いてほしい」と説得。
結局、講師として施設に来てもらい、現場で手が離せない人以外は全員が同じ講演を聞きました。
すると、職員みんなが感動し、翌日から仕事への取り組み方が変わったのです。
【転職のきっかけ】「利用者さんと共に楽しみながらできる介護」を広めたい
他の施設でも同じように現場改革したい!
外部講師を招いて、職員みんなが同じ講演を聞いて以来、現場はさらによくなりました。
若い職員もベテランも、どうしたらもっといい介護ができるか考え、どんどん実践するようになりました。
当時、主任になっていた私は、職員たちがやることを「すごい!やったね」とほめる側でしたが、ほめればほめるほどどんどん意欲的になり、現場の空気がどんどん熱くなっていきました。
そして、そんな現場を見ているうちに、私は思ったのです。
「私がいなくてもみんながやってくれる」と。
そして、このようないい風を、ほかの介護施設にも吹かせていけたらかっこいいと思ったのです。
うぬぼれていたのかもしれません。
でも、それほどまでに、うちの現場はよくなった。
課題があったとしても、ちゃんと解決できる職員達でした。
出産での退職前と合計して、15年目のベテラン介護職になっていた私は、同胞である上司に退職の意思を伝えました。前向きな理由での、いわゆる「発展的退職」のつもりでした。
寝耳に水だったようで、上司は絶句し、泣いていました。
こんなに期待していてくれていたんだと感謝しかありませんでしたが、だからといって気持ちが変わったわけではありません。
「1年待ちます」と告げてみんなにも公表し、少しずつ仕事を引き継いで、1年後に転職することにしたんです。
老健を辞めたあと、働こうと決めていたのは……
転職先は、特別養護老人ホーム(特養)がいいと決めていました。
“終の棲家”というイメージがる特養なら、3か月という期間を決めることもない。
たまたま姉がパートで週1回働いていた特養があり、そこが家から近かったこともあり施設長と数回面談し、すぐに採用していただきました。
そして私はありがたいことにみんなに惜しまれて、転職することになったのです。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
最終回の次回は、転職先での仕事内容や今後の抱負について語っていただきます。
次回「転職後の人間関係にとまどい…どうやって解決する?~転職体験Eさん4」は、5月6日に公開予定です。
*E・Wさんの「転職 成功・失敗 体験談」…
1回目、
2回目(前回)はこちら
合わせてチェック!介護のお仕事まるわかり情報
□
介護職・ヘルパーの魅力・やりがい・給与情報を徹底解説!
□
ケアマネの仕事の魅力や給与事情は?介護職からの転職でこんなメリットが!
□
サービス提供責任者の魅力や給与事情は?最新の資格要件も解説!
□
福祉用具専門相談員ってどんな仕事?やりがいや気になる給料事情を解説!
□
生活相談員ってどんな仕事?給料や仕事の魅力は?資格要件もチェック!
□
介護事務のお仕事を解説!平均給料は?仕事の流れは?資格は必要?
●○● 介護業界で転職する時の 基本ノウハウ ●○●
介護求人ナビの求人数は業界最大級! エリア・職種・事業所の種類など、さまざまな条件で検索できます