転職活動をしてすぐに再就職ができたものの、転職先の賃金が低い……
せっかく良い職場を見つけたのにショックですよね。
特に離職前の事業所での勤務が長ければ長いほど離職前の賃金水準が高くなるため、再就職先との賃金に差が開くことも。
「転職後に給料が下がってしまった」という方のために、国の支援制度があることを知っていましたか?
知らないと損する「就業促進定着手当」について、支給の条件や金額、申請方法などを詳しく解説!ぜひ活用してみてください。
就業促進定着手当とは
就業促進定着手当は、早期の再就職とその後の職場定着を促すことを目的として支給される就職促進給付の一つです。
雇用保険の受給資格がある方が、退職・失業した後に、早期の再就職により
再就職手当の支給を受けていることが給付を受ける上での前提となります。その後、雇用保険の被保険者として再就職先に6ヶ月以上勤めたときに
再就職先の賃金が離職前よりも下回れば「就業促進定着手当」が支給されます。
就業促進定着手当は、いわば
「再就職手当の追加手当」と言うことができ、再就職後の賃金低下分を一定期間補填してくれます。
就業促進定着手当が支給される3つの条件
就業促進定着手当の支給条件は3つあり、そのすべてを満たしていなければ支給されません。
<条件1>再就職手当の支給を受けていること
就業促進定着手当は再就職手当の延長線上の制度となるため、再就職手当の支給を受けていなければ支給対象にはなりません。
逆の見方をすれば、
再就職手当の支給を受けることができれば、さらに就業促進定着手当ももらえる可能性があるということになります。
<条件2>再就職手当の支給を受けた再就職の日から、同じ事業主に6ヶ月以上、雇用保険の被保険者として雇用されていること
再就職手当の支給には「1年を超えて勤務することが確実であること」「原則として、雇用保険の被保険者となっていること」が条件であるため、再就職手当の支給を受けるためには、実際に1年を超えて勤務しなければいけないと考える方もいるかもしれません。
しかし、再就職手当のこれらの条件についてはいわゆる安定した職業に就いていることを証明するためのものであることから、
実際に継続して勤務することができたときには、職場への定着が図られたということで就業促進定着手当が支給されることになります。
<条件3>再就職後6ヶ月間の賃金の1日分の額が、離職前の賃金日額を下回ること
就業促進定着手当は、再就職後に離職前よりも低くなった賃金を補填する役割があります。実際に再就職はしたものの、離職前の賃金よりも低くなってしまうことはよくあります。
特に、離職前の勤続年数が長ければ長いほど、再就職先との賃金のギャップが大きくなる傾向にあり、就業促進定着手当によってこの賃金のギャップを補うことで再就職先での職場定着を促進しています。
就業促進定着手当の支給額は?
前職との賃金の差額を日数分だけ支給
就業促進定着手当は、離職前と再就職先での賃金の差額について、再就職後6ヶ月間の賃金の
支払基礎となった日数分支給する仕組みとなっています。
支払基礎となった日数分とは、月給制であれば歴日数(1カ月の日数。30日や31日など)、日給月給制であればその基礎となる日数、日給制・時給制であれば労働の日数となります。
前職との賃金の差額を日数分だけ支給
就業促進定着手当の金額は、
(離職前の賃金日額 - 再就職後6ヶ月間の賃金の1日分の額)×再就職後6ヶ月間の賃金支払基礎となった日数
となります。
《離職前の賃金日額》
離職前の賃金日額は、雇用保険受給資格者証の額(離職時賃金日額)となりますが、上限額と下限額があり、2021年(令和3年)8月1日時点では以下の金額となります。
〇 上限金額
離職時の年齢が30歳未満の方 13,520円
離職時の年齢が30歳以上45歳未満の方 15,020円
離職時の年齢が45歳以上60歳未満の方 16,530円
離職時の年齢が60歳以上65歳未満の方 15,770円
〇 下限金額
2,577円(全年齢共通)
《再就職後6ヶ月間の賃金の1日分の額》
再就職後6ヶ月間の賃金の1日分の額については、賃金形態により以下のように計算します。なお、離職前の賃金日額の上限を超えてしまうときは上限額で、下限額よりも低い場合は下限額と適用します。
〇 月給制
再就職後6ヶ月間の賃金の合計額÷180
〇 日給・時給
①か②のうち、どちらか金額の高い方
① 再就職後6ヶ月間の賃金の合計額÷180
② (再就職後6ヶ月間の賃金の合計額÷賃金支払の基礎となった日数)×70%
就業促進定着手当には支給の上限があり、
基本手当日額(離職時年齢60歳未満は6,120円、60歳以上65歳未満は4,950円)×支給残日数×40%(再就職手当給付率70%の場合は30%)
となっています。
いつの期間の賃金で計算するの?
就職日が賃金締切日の翌日の場合は、賃⾦支払対象期間が完全な6ヶ月分となるため、就職日から6ヶ月間の賃金が対象となります。
一方で就職日が賃金締切日の翌日でない場合は、最初の賃金支払対象期間が完全な1ヶ月に満たないため、就職後最初の賃金締日後の6ヶ月分の賃金の合計となります。
なお、ここでいう賃金とは、税金や雇用保険料などが控除される前の
総支給額のことといい、就業規則等に従って⽀払われる、残業⼿当、通勤⼿当、皆勤⼿当なども含みます。ただし、3ヶ月を超える期間ごとに⽀払われる賃⾦(夏冬の賞与等)や、臨時の賃⾦(⼤⼊袋等)は含みません。
就業促進定着手当の計算シミュレーション
《Aさん》
離職時年齢:35歳
勤続年数:9年
離職理由:自己都合
基本手当所定給付日数:90日
基本手当支給残日数 :55日
離職前の月給:30万円
離職前の賃金日額:10,000円
基本手当日額:5,924円
再就職日:2021年4月1日
再就職後の月給:28万円(6ヶ月間同額)
就業促進定着手当の金額は
(離職前の賃金日額 - 再就職後6ヶ月間の賃金の1日分の額)×再就職後6ヶ月間の賃金支払基礎となった日数
で計算されます。
●離職前の賃金日額=10,000円
(年齢による上限額を下回るため、10,000円で計算)
●再就職後6ヶ月間の賃金の1日分の額=9,333円
(280,000円×6カ月÷180日)
●再就職後6ヶ月間の賃金支払基礎となった日数=183日(2021年4月~9月分の歴日数)
以上より、
(10,000円-9,333円)×183日=
122,000円
■支給上限額との比較
基本手当の日額5,924円×55日×40%=130,328円
※ 再就職手当の給付率60%のため、支給上限の給付率は40%を適用
支給上限額を下回っているため、就業促進定着手当の支給額は
122,000円となります。
就業促進定着手当の手続き方法
<就業促進定着手当の申請に必要な書類>
・就業促進定着手当支給申請書
・雇用保険受給資格者証
・就職日から6ヶ月間の出勤簿の写し(※)
・就職日から6ヶ月間の給与明細又は賃金台帳の写し(※)
※ 就職日が賃金締切日の翌日の場合は、再就職後6ヶ月分。就職日が賃金締切日の翌日ではない場合は、再就職後最初の賃金締切日後の6ヶ月分となります。
例えば、賃金締切日が月末で、就職日が4月1日の場合は4月~9月分の出勤簿と給与明細の写しが必要となりますが、就職日が4月2日の場合は5月~10月分の出勤簿と給与明細の写しが必要となります。
ステップ1:必要書類を受け取る
まずは
就業促進定着手当支給申請書と支給申請の案内を受け取ります。そして、再就職手当の支給決定ののち、ハローワークにて就業促進定着手当の支給申請書とリーフレットを受け取ります。地域によっては、再就職手当の支給決定通知書とともにこれらの書類が郵送されることもあります。
ステップ2:就業先に申請書の必要箇所の記入を依頼
就業促進定着手当支給申請書は事業主の証明が必要なところがあるため、あらかじめ事業主から記入を受けてください。
ステップ3:出勤簿と給与明細の写しを準備する
再就職後に同じ事業主の下で6ヶ月以上勤務したら、賃金支払対象期間における
出勤簿の写し(事業所に依頼する場合があります)と
給与明細の写しを準備します。
就職日が賃金締切日の翌日の場合は、再就職後6ヶ月分で、就職日が賃金締切日の翌日ではない場合は再就職後最初の賃金締切日後の6ヶ月分となります。
ステップ4:ハローワークに書類を提出
就業促進定着手当の支給条件を満たし、支給を希望する方は、再就職手当に係る
再就職日から起算して6ヶ月目に当たる日の翌日から2ヶ月以内に、就業促進定着手当申請書と前述の「就業促進定着手当の申請に必要な書類」に掲げる書類を添えてハローワークに提出します。
意外と短い!申請期限に注意
就職促進定着手当の支給申請期間は、
再就職した日から6ヶ月経過した日の翌日から2ヶ月間となっています。
●5月1日に再就職した場合
⇒11月2日~1月1日の2ヶ月間
もともと申請期限が短いうえに、就職日が賃金締切日の翌日ではない場合、就職後最初の賃金締切日後の6ヶ月分が基準となるため、実質的に1ヶ月程度しか期限がありません。
さらに、就業促進定着手当には事業主の証明が必要なところがあります。事業主の証明には時間を要することもあるため、
申請が遅れることがないよう計画的に手続きを進めていきましょう。
そして、添付書類にある6ヶ月分の出勤簿と給与明細の写しについても気をつけてください。実際に給与明細を紛失してしまうと、職場に給与明細の再発行を依頼することになります。紛失しないためにも、添付書類はしっかりと保管しておきましょう。
支給申請書の提出にも注意が必要です。
就業促進定着手当の支給申請は原則としてハローワークに行くか、電子申請による提出が求められています。これらの方法で申請ができない場合に限り、代理人による提出(この場合は、委任状が必要である)か郵送が可能となっています。
就業促進定着手当は手続き後、いつ振り込まれる?
就業促進定着手当の支給決定審査については、厚生労働省職業安定局雇用保険課「雇用保険業務取扱要領」に審査の期限が記載されています。
就業促進定着手当の支給・不支給の決定は、申請を受理した日から15日以内に行うとされています。
そして、支給が決定されたら、決定をした日の翌日から起算して7日以内に指定の金融機関に振り込まれます。
申請から振り込みまでは概ね1ヶ月程度を見込んでおくとよいでしょう。
就業促進定着手当が支給されないケース
再就職手当を支給されていない
就業促進定着手当は、前提として
再就職手当の支給を受けている人が対象となります。
就業促進定着手当は再就職後6ヶ月以上の勤務の継続が条件とされていることから、期間従業員(契約の更新なし)として6ヶ月の雇用の場合も対象になるのではないかと思われている方もいるかもしれませんが、再就職手当の支給条件として「1年を超えて勤務することが確実であること」とあり、この場合は再就職手当が支給されません。
就業促進定着手当だけの支給を受けることはできず、必ず再就職手当の条件を満たし支給を受けたうえで、就業促進定着手当の支給条件を満たす必要があります。
日額での賃金が下がっていない
再就職先の賃金が思いのほか高く、
離職前の賃金を上回った場合は条件を満たしません。
離職前の賃金「日額」と再就職後6ヶ月間の賃金「日額」の比較であるため、基本ベースは「日額」となります。
離職前、再就職先がともに月給の場合は日額ベースも180で割ることで算出するため、単純に総額の比較で判断することができるのですが、離職前が月額で再就職先が日額のように賃金形態が変更された場合は、総額では離職前を下回っているものの、日額ベースでは再就職先の方が高いという場合も考えられます。
転職後、6ヶ月以内に別の会社に再就職した
就業促進定着手当を受けるには、
6ヶ月以上雇用保険の被保険者として雇用されていることが条件として挙げられます。
そのため、例えば3ヶ月で別会社に転職した場合でも、結果的に6ヶ月勤務が続いていれば就業促進定着手当は支給されるのではと思われる方もいるかもしれませんが、条件には
「同じ事業主に」とあるので、このような場合は就業促進定着手当が支給されることはありません。
転職後の賃金が上限額以上
基準となる離職前の賃金日額には、年齢に応じて上限額が設けられています。
再就職後の賃金日額が離職前の賃金日額の上限を超えていると、離職前と再就職後の賃金の差額がないことになってしまい、就業促進定着手当は支給されません。
例えば、35歳で離職前の賃金日額20,000円、再就職先の賃金日額は17,000円だったとします。賃金日額は離職時の年齢が30歳以上45歳未満の方の場合は上限額が15,020円であることから、賃金日額は15,020円となります。
このときの再就職先の賃金日額も離職前の賃金日額の上限を超えているため、15,020円ということになります。つまり、支給額は0円となります。
就業促進定着手当のよくある疑問
Q.派遣やパート・アルバイトへの転職でも支給されますか?
再就職手当の支給条件には雇用形態が問われていません。つまり、
派遣でもパートでもアルバイトでも再就職手当を受給することができます。
再就職手当の支給を受けたうえで6ヶ月以上雇用保険の被保険者として勤務することができれば、就業促進定着手当の支給を受けることができます。
Q.派遣社員に転職したら、同じ派遣先で6カ月以上勤務しないとダメですか?
派遣社員として勤務する場合、雇用契約は派遣先でなく派遣元(派遣会社)になります。
基本的には、派遣先が就職後6ヶ月以内に変わっていったとしても派遣元は変わらないため、
派遣元の会社と雇用保険の被保険者として雇用関係が継続していれば就業促進定着手当の支給対象となりえます。
ここでポイントになるのが、雇用保険の被保険者として雇用関係が継続していることです。
例えば、6ヶ月に到達する前に派遣先が変わり、所定労働時間が20時間未満になるなど派遣元との雇用契約自体は継続されているものの雇用保険被保険者資格を喪失した場合は支給条件を満たしません。
同様に、3ヶ月の派遣契約から1ヶ月の空白期間があり、その後次の派遣先になったときにその空白期間が一旦退職扱いとなり、雇用保険の被保険者として取り扱われない場合も、就業促進定着手当の支給対象外となります。
Q.転職後6カ月以内に会社都合での退職となった場合も支給されますか?
自己都合であっても事業主の都合であっても、
就職後6ヶ月経過前に再就職手当の支給に係る再就職先から退職した場合は、就業促進定着手当が支給されません。
ただここで気になるのは、退職ではなく事業主都合の出向の場合はどうかということです。出向の場合であっても、再就職手当の支給に係る再就職先にて、雇用保険の被保険者資格が喪失された場合は対象外となります。
Q.就業促進定着手当の受給直後に仕事を辞めてもいいですか?
就業促進定着手当の
受給直後に仕事を辞めても返還の必要はありません(不正受給は除く)。
なお6ヶ月以上雇用された後、支給申請時にすでに離職していたとしても支給条件にある「再就職手当の支給を受けた再就職の日から、同じ事業主に6ヶ月以上、雇用保険の被保険者として雇用されていること」は満たすため、就業促進定着手当の支給の可能性があります。
なお、就業促進定着手当の支給後に離職し、失業状態になったときは、再就職手当と就業促進定着手当の支給日数分を除き、なおも基本手当の支給残日数があればその残日数分の基本手当を受給できる場合があります。
早期の再就職でメリットたくさん!
再就職手当は早期の再就職に対するお祝い金という意味合いがありますが、さらに職場に定着できたときは就業促進定着手当を受け取ることができるため、再就職手当の上乗せとしてとても魅力的な制度になっています。
基本手当を所定給付日数分すべてもらうよりも、早期に再就職し、
賃金と再就職手当・就業促進手当をもらった方が手当の金額が多くなることもあり、
仕事のブランク期間も短くすることができるため、多くのメリットを得ることができます。
再就職手当の支給を受けた方で、再就職先の収入がダウンした方はぜひ活用してみてください。
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