■書名:筋肉より骨を使え!
■著者:甲野善紀 松村卓
■発行元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
■発行年月:2014年5月
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寝たきり防止は筋力アップだけではなく「骨の力」でも?!
万能細胞が話題になるほど人のカラダについての研究は進んできたとはいえ、カラダにはまだまだ人の理性的研究では把握できない未知が山ほどあるよう。介護ではごく日常的な出来事である「おむつかぶれ」でさえ、長い間そのメカニズムが不明とされ、最近になってその原因解明につながると期待される研究成果がニュースになったほどだ。
現代医学でもカラダのことは全部わからない、のであれば、やはり頼りになるのは現場のプロの力。健康保険制度という縛りのある医療にくらべると、介護の場合は、「どんな介護を提供するか」という出発点をきちんとおさえている限り、「どのようにするか」という質の追究は、個人の意欲次第。カラダについての「引き出しは多い」にこしたことはない。
スポーツトレーニングやリハビリの分野では筋力重視は常識。筋力が落ちると寝たきりになる、と介護の分野でも筋力維持は強調される。その一理は否定しないが、筋トレ重視がいきすぎるとかえってカラダがかたくなって、人が本来もっているやわらかい動き方ができなくなり、ケガをしやすいカラダになる。でも、「骨」の動きを十分に引き出せば、その固さがなくなり、スポーツでもふだんの生活でも、小さな筋力でやわらかな動きができるようになりますよ――と、筋肉重視の世の趨勢に「筋肉より骨に注目!」と提唱して話題を呼んでいるのが本書。
対談でのやりとりで話は進む。一方の主役は、NHKの介護講座などでもよく知られた武術家の甲野善紀さん(本サイトのコラム
『日々是介護術』の講師である甲野陽紀さんの父上でもある)。もう一方は、元陸上の短距離選手で、100mの日本代表クラスの記録をもっていた松村卓さん。高い実力をもちながら、現役時代はケガに悩まされ力を十分に発揮できなかった松村さんが、その原因は自分が盲信的に取り組んできた従来のトレーニング法にもあるのでないか、と疑問をもち、甲野さんの元を訪れたことが二人の交流のはじまり。その後、松村さんは甲野さんのカラダの使い方を参考にしながら、独自に「骨」の働きに注目。骨の動きをよくすることで、無理のないやわらかな動きが生まれることを“発見”し、それを指導法や整体法に生かす活動を続けている。
「骨を使う」とはどういうことか、については、本書だけではなく、松村さんの他の著書も参考にしていただきたいが、本書の中で、100mの世界記録保持者であるウサイン•ボルト選手が骨の力をとてもうまく引き出して走っている、と松村さんが指摘していることには興味をそそられる。たしかにボルト選手は素人目にも「カラダをがっちり固めた走り」ではなく「全身の関節ががしゃがしゃと動いているような」にぎやかな走りに見える。筋力だけに頼るのではなく、骨のつながりを生かしているので、カラダ全体で走ることができているのだという。
筋力が落ちると生活の質が落ちるからと、すでに介護の必要な段階にある人に筋トレをさせてもなかなか続かないもの。年とともに筋力が落ちるのは仕方がないことでもある。でも、「骨を使う」には苦しいトレーニングはいらないし、関節をやわらかく動かすことができるようになることは想像しただけでも、よい効果がありそうである。
「骨」を「引き出し」に加えてはいかがでしょうか?
<佐藤>
著者プロフィール
甲野善紀(こうの•よしのり)さん。武術家。特定の流派、流儀にとらわれず、武術の術理を独自に研究している。音楽家、スポーツ選手、脳科学者、漫画家、役者など他分野の専門家と幅広く交流も行なっている。著書は多数。近著に『武術&身体術』(共著)、『るろうに剣心』(解説)などがある
松村卓(まつむら•たかし)さん。スポーツ指導法•整体法の研究者。現役のスポーツ選手時代は、陸上の短距離選手。日本代表クラスの記録をもちながら、現役時代はケガに悩まされ、十分な力を発揮できなかったことから、ケガをせず力を十分に発揮できるカラダの使い方の研究に取り組んでいる。現在、スポーツケア整体研究所株式会社代表取締役。著書に『骨ストレッチ ダイエット』『だれでも速く走れる 骨ストレッチ』がある