■書名:おかげさまで生きる
■著者:矢作直樹
■出版社:幻冬舎
■発行年月:2014年6月25日
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「死」は怖いものじゃない。「死」を考えることを、よりよい「生」につなげる一冊
介護の仕事を続けている限り、「利用者との永遠の別れ」はさけて通れない悲しい出来事だ。
先日まで元気だった利用者が亡くなってしまったと知った時、心を通わせ合った利用者の看取りを経験した時、胸が張り裂けそうな気持ちを経験したという人は多い。あまりのショックに、「介護の仕事を辞めたくなった」と言う人も少なくない。
誰にも必ず訪れる「死」をどうとらえるか?
救急医療の第一線で命と向き合う医師が、「死」と「生」について語ったのが本書だ。
著者の矢作直樹氏は現役の医師であるが、人は「大いなる存在に生かされています」と言う。
この部分だけを読むと「医師なのに医療よりも非科学的なものを信じるのか?」と思うかもしれない。しかし、読み進めるうちに、その思いは矢作氏の救急医療現場での経験から生まれたものだということが分かる。その一つが、心肺停止状態の患者が蘇生するケースだ。
<心肺停止から8分間で亡くなる人もいれば、12分間が経過しているにもかかわらず戻ってくる(蘇生する)人もいます。
これが命の不思議であり、生と死の境目は誰にも分からないという言葉の深意だと思います。
私はいずれの宗教にも帰依していませんが、こうした現場をたくさん見てきた者として言わせていただくと、生と死の境目は神のみぞ知るボーダーラインだと感じます。>
矢作氏は、「死」について、こう語っている。
<死は誰にとっても、残念な結果ではありません。>
<人生は、寿命があるからこそ素晴らしい。限られた時間をどう過ごすかが大事。>
<生きることとは死ぬこと。あるがままの自分を受け入れ、「すべては学びである」と知る。>
多くの命と向き合ってきた矢作氏の言葉は、ずしんと心に響くと同時に、「死」を恐ろしいもの・悲しいものと思っていた気持ちを変えてくれる力を持っている。
また、矢作氏は本書の中で、残された人々(看取りをする人)にもエールをおくっている。
<残った方々の務めは、亡くなった方が遺した歴史を振り返ること、自分とその方が共有した時間を思い出すこと。旅立つ方の晴れ晴れとした気持ちを、静かに実感してあげてください。>
そして「残された私たちは、ちょうど競技場で動くプレーヤーのような存在」だとも言う。
<この世は競技場であり私たちは今を生きるプレーヤーである。目には見えなくても、観客席では他界した人々が私たちに声援を送っている。いつか彼らと再会する日を楽しみに、今を一生懸命生きよう。>
本書は、「死」をどうとらえるのか、だけではなく、今私たちが人や仕事、家族とどう向き合い、「どう生きるか」という問いの答えを見いだすためのヒントになる一冊だ。
著者プロフィール
矢作直樹(やはぎ・なおき)さん
東京大学医学部救急医学部分野 教授/同大学医学部附属病院救急部・集中治療部 部長。金沢大学医学部卒業後、麻酔科、内科、救急・集中医療などを経験し、2001年から現職に。「悩まない−あるがままで今を生きる」(ダイヤモンド社)、「『いのち』が喜ぶ生き方」(青春出版社)、「ご縁とお役目」(ワニブックス)など、著書多数。