■書名:認知症 「不可解な行動」には理由がある
■著者:佐藤眞一
■発行元:ソフトバンク新書
■ 発行年月:2012年8月25日
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認知症の人の気持ちを知ると、介護する側が取るべき行動がわかる
「毎日顔を合わせているのに、急に『どちら様ですか?』と言われた」
「私は金持ちだ、総理大臣の親戚だ、など作り話ばかりする」
認知症になると現れる行動はさまざまだ。物忘れから始まり、家への帰り道がわからなくなり、人の名前すらも忘れる。家族は元気だったころとの違いに困惑し、悩む。
本書では、「認知症の人はなぜ、あのような行動を取るのか」「介護する側はどのような行動をすればよいのか」を、心理学・人間行動学の観点から読み解き、20の例をあげて解説している。
例えば、家にいるのに、「家に帰りたい」と訴えるのは何故だろうか。認知症は進行すると、新しい記憶から失われていくといわれている。そのため、認知症の人の頭の中にある「家」は、今の家ではなく、引っ越す前の家や子どもの頃に住んでいた家であることから、「帰りたい」となるのだという。
「私は総理大臣の親戚だ」といった作り話は、この場にいたくないという逃避の心の現れであったり、事実なのか想像なのかを判断する機能が衰えていることも要因として考えられるが、自分の人生で果たせなかったことを反映している場合もある。
そのため、本人には嘘を言っているという自覚はない。周囲にとっては嘘でしかなくても、本人にとっては“真実”なのだから、否定してはならないという。自分が事実だと思っていることを否定されたり、「嘘をつくな」と怒られたりすると、認知症の人はますます混乱してしまうためだ。
よく、「認知症は介護する人のほうが大変。患った本人は何もわからない」といわれるが、著者の佐藤さんは「本人も辛い」と述べている。病状が進行するにつれ、認知症であることを自覚する苦しみや、アイデンティティーの喪失感も体験しなくてはならない。「今がいつで、ここはどこで、目の前の人は誰だかわからない」といった不安な状態の中で生きる認知症の人の気持ちを理解することが大切なのだという。
厚生労働省の推計によれば、認知症の人の数は、2015年には262万人に達すると言われている。
<これらの数字が意味するのは、もはや認知症は特別なものではない、ということです。私たちは、認知症が特別な社会ではなく、認知症がごく当たり前の社会、認知症とともに歩む時代に生きているのです。現代の日本では、誰もが認知症の人になり、認知症を介護する人になる可能性があるのです>
認知症は、患っているのは脳だけで体は丈夫と思われがちだが、発症すると急激に老化が進み、余命も短くなる。
残された時間をよりよく生きてもらうために、不可解と思える行動の裏にある心理を知り、良い関係を築いていくことが、よりよい介護につながるのではないだろうか。
<松原圭子>
著者プロフィール
佐藤眞一(さとう・しんいち)さん
大阪大学大学院教授、博士。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程、東京都老人総合研究所研究員、ドイツ連邦共和国マックスプランク人口学研究所上級客員研究員などを経て、現職にいたる。