■書名:認知症の困った症状は劇的によくなる:怒りっぽい・徘徊・歩行障害・嚥下障害…
■著者:山野井正之
■発行元:現代書林
■発行年月:2012年6月26日
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認知症治療の現状に警鐘を鳴らす。「家族を救うこと」をめざすコウノメソッドとは?
認知症は原因などにいまだ不明な点が多く、治療をすると薬の副作用で悪化してしまうというケースもあると言う。その背景には、認知症患者の人柄や個性の違いを考慮せずに、画一的な治療が行われているという実情がある。
本書に登場するのは、認知症治療の問題点に切り込み、その現状に大きな警鐘を鳴らし続ける河野和彦医師。その河野医師が考案・実践している認知症治療のノウハウ「コウノメソッド」に焦点を当てている。そして、なぜいま「コウノメソッド」が必要なのかを説いていく。
「コウノメソッド」の詳細については、ぜひ本書を読んでほしい。
ここでは、「コウノメソッド」が第一の目的としている「家族を救うこと」について紹介したい。
「家族を救う」とはどういうことか。
「コウノメソッド」では、「認知症治療の第一の目的は、患者さんの中核症状(認知機能の低下)を治すことではなく、患者さんの周辺症状(困った行動)を治すことにある」と言う。認知症による本当に困る問題というのは、家族に通帳を盗まれたと言って騒ぐ、暴力をふるう…など、周辺症状にあるからだ。
<これまでの認知症治療は、治療(投薬)によってかえって周辺症状を悪化させ、家族を困らせていました。それは認知症の主症状、すなわち認知機能の衰えという「中核症状」を改善することばかりに、目が行っていたからです。病気の中核症状を治療することは、ほかの病気では当然のことです。しかし認知症には、必ず介護という社会的な問題がともなってきます。それを無視した治療は、じつはかえって介護困難な状況をつくり出していたのです。>
治療には、医療と介護の連携が不可欠になる。認知症の症状は個人差が大きく、薬の効き方も一様ではないからだ。
<経験豊富な専門医も、最初はあたりをつけて処方し、その薬の効き方から診断を確定したり、さらに的確な処方を判断していくというプロセスを取ります。ところが、薬を服用した患者さんにどのような変化が起こったか、医師は観察することができません。それができるのは、家族など患者さんを介護している人たちです。>
しかしながら現状は、医療と介護の連携が不足していると言われている。それが、認知症医療の問題点の一つを生み出している。その状況を打破できるのは、介護の現場で働く人や家族からの声ではないかと、指摘する。
<医療と介護には見えない垣根があって、ケアマネやヘルパーから医師に情報を上げる仕組みがありません。ケアマネの言葉など医師が受け入れるわけがない、というのが常識です。でも、そんなことでは認知症は治療できません。医師もケアマネも地方自治体もすべての立場が、みんなで一緒に勉強していかなければいけないんです>
本書には、認知症の基礎知識から、治療薬やサプリメント、副作用についてなど、最新情報も掲載されている。また、実際に認知症治療に携わっている医師たちへのインタビューからは、認知症が改善する病気であることも実感できる。認知症医療・ケアについて改めて考えさせられる一冊だ。
<小田>
著者プロフィール
山野井正之(やまのい・まさゆき)さん
エディター/ジャーナリスト。1958年生まれ。立教大学卒業後、編集プロダクション勤務を経て、1989年よりフリーランスに。医療系啓蒙書の編集・執筆を通じて科学の落とし穴となりうる「間違った医療・健康常識」に警鐘を鳴らし、最新の情報をわかりやすくレポートしながら世の中に問題提起している。