■書名:こうして乗り切る、切り抜ける認知症ケア 家族とプロの介護者による究極の知恵袋
■著者:朝田 隆・吉岡 充・木之下 徹 編著
■発行元:新興医学出版社
■発行年月:2010年3月31日
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家族、介護職、専門病院スタッフが、現場で役立つ認知症ケアの知恵を伝授!
プロであるはずの介護職にとっても、認知症の入居者・利用者への接し方は難しい。たとえ認知症の知識があっても、いざ実践となると、「どうしてこんな行動を?」「どうしてさしあげればいい?」と、個別のケースにどう対応すべきか迷うことも多いのではないだろうか。
本書の序文には次のように書かれている。
<これまで認知症の人へのケアの基本は、環境整備や対応の仕方にあると言われてきました。ところが多くの場合、こうした事柄は「優しさをもって」「相手の立場に立って」「個別性を重んじて」などと理念として語られる傾向が強かったように思われます。そこでややもすると、実際に何をどうすればいいのかという具体的な方法が示されることが少なかったかもしれません。>
本書は、認知症ケアの現場で起きがちな事例を取り上げ、その対応についてQ&A形式でまとめてある。
一般的なハウツー本と性格が違うのは、介護をしている家族、介護職、認知症専門病院のスタッフという三者が知恵を紹介している点だ。
たとえば、「朝食を食べてすぐに『朝食はまだか?』と言い出す」というケース。
まずは、そういう行動の背景には記憶障害や満腹中枢の障害があることを解説。そのうえで、家族やドクター、介護職が、それぞれの立場から下記のような具体的な解決法が紹介されている。
●食事を連想させる場所から離れてもらう
●何か軽いものを食べて待ってもらう(または、忘れてくれるのを待つ)
●一緒に食事の用意をしてもらう など
教科書的な「答え」というものではなく、「こうすればいいですよ」「私たちはこうしていますよ」という実体験に基づいたアドバイスとなっている。「なるほど、そういう接し方もあるのか」と参考になる意見も多いのではないだろうか。介護職からは思いつかない、家族ならではの工夫もあるだろう。
とりあげる事例は、在宅での介護を想定した食事や着替え、入浴、身だしなみ、火の元の注意、睡眠、徘徊、暴力、探し物…など。また別の章では、「うちの親は認知症ではないと否定する家族への対応」など、ケアマネジャーや介護スタッフの疑問や悩みにも答える。
執筆者は編者の3名を含め、総勢48名。医師や看護師、介護福祉士、ケアマネジャーのほか、作業療法士や理学療法士、臨床心理士、精神保健福祉士、訪問薬剤師、そして20名の家族介護者が名前を連ねる。
<認知症の方、介護されるご家族はその個性も生活環境も様々に異なります。そこでQ&A形式の章では、1問に1答ではなく、できるだけ多くの回答を用意するように努めました。こうして出来上がった回答は、いずれもけっして机上の空論ではない、苦労の末に得られた介護者の知恵の結晶です。>
本のタイトルにもあるが、まさに、様々な知恵とアイデアが詰まった《知恵袋》だ。事例と回答の内容が具体的できめ細かいので、介護職の人たちがすぐに実践できるアイデアが見つけやすい。ご家族にアドバイスする際にも参考にしたい一冊だ。
<小田>
編者プロフィール
朝田 隆(あさだ・たかし)さん
東京医科歯科大学医学部卒業。2001年5月より、筑波大学臨床医学系精神医学教授。専門分野は、老年精神医学。特にアルツハイマー病の臨床一般とうつ病。研究として、早朝診断法・予防、プロテオミクス研究に携わる。
吉岡 充(よしおか・みつる)さん
東京大学医学部卒業。現在、東京八王子市・上川病院理事長。高齢者医療・ケアの政策決定過程に関与。1986年より高齢者医療現場での身体拘束(抑制)廃止に取り組み、介護保険における身体拘束禁止規定に影響を与える。
木之下 徹(きのした・とおる)さん
東京大学医学系研究科保健学専攻博士課程中退、山梨医科大学医学部卒業。現在、こだまクリニック院長。認知症の訪問診療専門の医師として、BPSD(認知症に伴う行動と心理の症状)で医療機関に通えなくなった人たちを診療している。