■書名:認知症の人たちの小さくて大きなひと言 ~私の声が見えますか?
■監修:永田 久美子
■発行元:harunosora(ハルノソラ)
■発行年月:2015年9月1日
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あなたは認知症の人たちの「ひと言」に耳を澄ませているだろうか?
本書には、45の言葉が掲載されている。45人の認知症の方が発したそれぞれの「ひと言」だ。
ページを開くと、見開きの右ページにブルーの大きな文字でぽつんと「ひと言」が紹介される。小さく、言葉の主のお名前(イニシャル)と年齢が添えられている。まわりのまっしろな余白が、認知症の方の不安や淋しさを表しているかのようだ。
監修者の永田久美子さんは、本書に掲載された45の言葉を「キラーパス(絶妙に相手に届く鮮烈なパス)」あるいは「その人の一生分が濾過されて生まれた『わたし』のエッセンスのような」と表現している。
たとえば、「ひと言」の中にはこんな言葉がある。
●ぼくは壊れてく。助けて。
●先生、俺なんか悪いことしたんかな。
●私、がんばる! 帰っていいよ。
●こんなことさせてごめんよ。
私たちは、認知症の人は何もわからなくなっていると決めつけがちだ。しかし、ここに記された言葉は、発症して傷つき、苦悩する言葉や、家族や介護職員を気遣う言葉、あるいは自分の意志を無視する周囲への怒りの言葉など、どれも真っ直ぐで感情にあふれている。その一つひとつが、発した方の人生の重みを伴い、読者に大事なことを教えてくれているようだ。
永田さんは、あとがきに次のように書いている。
<一見、認知症の人はわかっていないように見えても、本人の中には膨大な思い出や体験がぎっしりと詰まっています。それらが源になって、その人なりに懸命に感じ、考えていたことが、ふとある拍子に言葉として発せられます。(中略)認知症の症状の理解だけにとどまらず、発症してから最期のときまで、一人ひとりが個性豊かに自分の人生の途上を生きているという理解がとても重要です。>
私たちはあらためて、自らの中に潜んでいるかもしれない「認知症の人への偏見」を意識してみる必要がある。
さらに、本書の特徴は、認知症の人の言葉を「真摯に受け止め」「書き留めた」ものだということだ。
さきほど右ページに「ひと言」が掲載されていると書いた。では左ページはというと、その言葉を受け止めた家族や介護職員のコメントが記されている。「ひと言」を聞いたときの状況や、そのときの思いについてだ。本書が読む人の胸を打つのは、実はこの部分があるからではないか。知らず知らずのうちに偏見で見ていた自分に気づいたこと、取り返しが付かない後悔の念、認知症の家族や利用者への感謝など、その正直な告白に、はっとさせられるのだ。
永田さんはこうも言う。
<この一冊の中にある一つひとつの「ひと言」は、それに耳を澄まし、心に留めて(書き留めて)くれる人がなかったら、一瞬で消えていっただろう儚い声です。(中略)本人が懸命に発した「ひと言」を真摯に受け止める者がいてくれること自体が、認知症の人にとって無条件の安堵につながるのではないでしょうか。>
<介護や医療の現場はとても忙しい現実がありますが、認知症の人のその瞬間の「ひと言」を心に留めることは、本人の傍らにいる者にしかできません。その意味で、それは専門職の大事な役割です。>
介護に携わる人すべてに、手にとってほしい一冊だ。
<小田>
監修者プロフィール
永田 久美子(ながた・くみこ)さん
千葉大学大学院看護学修士課程修了。東京都老人総合研究所研究員などを経て、2000年から認知症介護研究・研修東京センター研究部長として活躍中。認知症の人と家族が共に自分らしく暮らしていくための支援など、地域ぐるみの支援に取り組む。編著書に『扉を開く人 クリスティーン・ブライデン』『認知症の人の見守り・SOSネットワーク実例集』など多数。