■書名:創誠記 ~介護リハビリテーションの確立
■著者:田中 紀雄
■発行元:エムジー・コーポレーション
■発行年月:2016年3月1日
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介護業界のイノベーション! 「カラダラボ」の挑戦とは?
介護の現場では、ほかの施設との差別化を図ろうと、様々なサービスに特化するケースが増えている。たとえば「リハビリ特化型」と呼ばれるデイサービスも目立つようになってきた。
本書は、そのリハビリ特化型デイサービス「カラダラボ」を皮切りに、ベンチャー企業として介護事業に参入し、わずか4年で全国100施設へと成功させた著者が、創業期の思いや、介護業界への挑戦の数々について綴った本だ。
著者が介護業界に参入を決め、最初の施設をオープンしたのは2010年。それまで身を置いていた理美容業界でサービス業の観点が身についていた著者にとって、当時の介護現場は衝撃だったと言う。
<ホスピタリティの精神もなければ、どの施設へ行っても同じサービスが提供されており、“ただあずかっているだけ”にしか見えませんでした。>
「自分なら人の尊厳を無視しない!」。
その気持ちが介護事業参入へと駆り立て、「旧態依然のあずかるだけのサービスであった介護事業所に対して、模範となるべき活動をやっていこうと決心した」という。
著者は、フィットネスジムのようなマシンによる訓練を行う施設が台頭する現状にも、違和感があるという。つまり、身体機能の改善を目的とするだけで、生活向上に目が向いていないのではないかという疑問だった。
改善したいのは、身体機能だけだろうか。高齢者が改善したい、取り戻したいのは「生活そのもの」ではないか。著者は「生活に繋がらない機能訓練はもういらない!」と言う。
<私たちがサービスを提供する人は、「患者」ではなく「生活の主体者」であることを忘れてはいけません。「痛いから治して」に応えることが目的ではなく、「生活していくために何をしたらよいか」を共に考えることがとても重要なのです。>
リハビリ特化型デイサービス「カラダラボ」を立ち上げ、機能訓練だけでなく、動作や作業に必要な力を回復するための能力訓練を提供。そして、理学療法の権威である札幌医科大学名誉教授・宮本氏にアドバイスをもらい、「レッドコード」と呼ばれるリハビリツールを採用した。ノルウェーで開発された高齢者にも負担がかからないトレーニング法だという。
さらに、日常生活動作の向上の一環として、避難訓練や様々なレクリエーションに社会参加する、といったアクションも起こしていく。それによって利用者一人ひとりの日常生活動作を評価。スタッフも「質の評価」を意識するようになったという。
こうした様々な挑戦と試行錯誤によって、介護業界の常識に風穴を開けてきたのだ。
本書には、創業時の苦労や様々な取り組みについても書かれている。また、『田中流 仕事の流儀』としてまとめられた章には、スタッフの生かし方、明るい現場づくりのヒントが並ぶ。たとえば、以下のような言葉だ。
●ゴールを決めてから人を採用しているのであれば、イノベーションは期待できません
●人生に熱中できる人間が集まった組織にしたい
●理念を公言すると現実化しやすくなる
●社員との触れ合いでひらめきが生まれる
施設運営者はもちろん、管理者やリーダーにも参考になる事例や言葉が見つかるのではないだろうか。
著者は、熱い言葉で、介護業界が抱える課題に対して苦言を呈している。介護に携わる一員として、耳が痛い言葉もあるかもしれない。しかし、そこには同じ介護を志す人たちへの共感とエールが込められていると感じる。「介護とはなにか」を見つめ直すきっかけに、おすすめの本だ。
<小田>
著者プロフィール
田中 紀雄(たなか・のりお)さん
株式会社ヒューマンリンク 代表取締役。1974年、北海道岩見沢市生まれ。2010年8月、株式会社ヒューマンリンク設立。リハビリ型のデイサービス「カラダラボ」を主軸に全国に介護・福祉施設を展開。会員制システムをスタートした4年間に100を超える施設を開設。2015年、新たな事業領域に挑戦する起業家の努力と功績を称える国際的な表彰制度「EY アントレブレナー・オブ・ザ・イヤージャパン」の北海道ブロックにて特別賞を受賞。