■書名:認知症の人のつらい気持ちがわかる本
■著者:杉山 孝博(監修)
■発行:講談社
■発行年月:2012年8月25日
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認知症の人が生きている世界を理解し、気持ちに寄り添う方法とは?
認知症は、発症した本人のつらさよりも、介護する側の大変さの方が大きく扱われがちではないだろうか。多くのことを忘れさまざまな症状を発する認知症の人に振り回される、疲弊した介護者……。そんなイメージが世間一般に浸透しているが、当然ながら認知症の本人だってつらいのだ。
本書は、認知症の人が生きている世界はどのようなものかに焦点を当てている一冊だ。症状の現れ方から、本人の思考を推察し、下記の9種類の法則にまとめて解説している。
1. 衰弱の進行
2. 記憶障害
3. 症状の出現強度
4. 自己有利
5. まだら症状
6. 感情残像
7. こだわり
8. 作用・反作用
9. 症状の理解可能性
たとえば、食事をしたのにすぐに忘れてしまうといった「記憶障害」は、本人は忘れたことにすら気づいていないことが多い。「食事を食べた記憶がない」のに、なぜか周囲は「食べた」と言っている。不思議な現象が起きていると本人は感じているのだ。認知症の人に接するにあたり大切なのは、周囲にとっては明らかな「真実」でも、「記憶になければ本人にとって事実ではない」ということだという。
また、介護者がよかれと思ってやったことも、認知症の本人に理解されず、拒否されたり暴力を振るわれたりすることがある。本書では、その行動の一つひとつに“理由がある”と解説している。
たとえば、「夜に一人で寝ること」も、本人にとっては「一人で暗闇に放り出された」と感じているかもしれない。徘徊を予防するために部屋に鍵をつけたら「閉じ込められた」と不安を感じる人もいるだろう。失禁をしたから洋服を脱がせようとしたのに「いきなりズボンを脱がされた」と感じたなら、驚き抵抗するのも自然な反応と言える。
「困った行動をする」と考えるのではなく、認知症の本人がどのように感じた末での行動なのか、考えることが大事だという。
「認知症でも、本人は一生懸命に行動し、プライドも持っている」と本書監修者の杉山さん。たとえ失禁したとしても、認知症の人は漏らしたことを情けなく感じ、自分が失敗したこともきちんとわかっている。「何もわからないだろうから」とおざなりな態度で接したり、強く叱責したりした場合、その記憶はなくなっても、嫌な感情は残るという。
<認知症の人から周囲への気持ち、家族や周囲の人から認知症の人への気持ちを聞いたり読んだりして、私がもっとも感じたのは、互いを思いやる心、です。その気持ちを、ぜひ読者の方にも感じていただければと思います>
第一章の「自分を失っていく不安と恐怖」では、認知症の初期症状の心の動きを解説している。「忘れっぽい」「集中できない」といった違和感が、徐々に認知症の形になりはじめ、自分を失う不安と恐怖、悲しみ、焦りが押し寄せる。読めば「認知症の人は、こうしたつらい気持ちと向き合ってきたのか」と、寄り添いたい気持ちが強くなってくるはずだ。
監修者プロフィール
杉山 孝博(すぎやま・たかひろ)さん
川崎幸クリニック院長。東京大学医学部付属病院で内科研修後、川崎幸病院で地域医療に取り組む。1998年同病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックを設立し、院長に就任、現在に至る。著書に『認知症・アルツハイマー病 早期発見と介護のポイント』(PHP研究所)、『ぼけ 受け止め方・支え方』(家の光協会)、『痴呆性老人の地域ケア』(医学書院)など多数。