■書名:私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活
■著者:樋口 直美
■発行:ブックマン社
■発行年月:2015年7月15日
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「認知症当事者も苦しい」レビー小体型認知症と診断された本人による闘病記
「認知症」という言葉から、どのようなイメージを思い浮かべるだろうか。
介護や認知症と関わりがなければ、「治らない病気」「進行性でどんどん症状が重くなる」「知性も人格も失う」「失禁や徘徊、暴言などで周囲の人々が困惑する」といったイメージを持つ人も多いかもしれない。
しかし、そのような認知症のイメージは、本書を読み終わったあとには、覆されているはずだ。
本書は、若年性レビー小体型認知症と診断された樋口直美さんが、これまでの経験をまとめた闘病記である。
「レビー小体型認知症」は、「アルツハイマー型認知症」に次いで多い認知症だ。
記憶障害や見当識障害といった認知症によくある症状も見られるが、実際には見えない人や虫といった「幻視を見る」という症状があるのが特徴である。
認知症の進行スピードは人それぞれだが、一般的に回復はしないと言われている。
しかし、樋口さんはレビー小体型認知症と診断されたあとにもかかわらず、認知機能が回復。
現在は自律神経障害以外の症状はほぼ消えているという。
本書では、樋口さん自身がレビー小体型認知症ではないかと気づき、診断を受け、機能が回復するまでの約2年4カ月にわたる日々の行動や思いがつづられている。
本文の中には下記のような気持ちが記載されている。
「物事を忘れていくことへの恐怖」
「自分が自分ではなくなっていくのではないかという不安」
「周囲の人々に対して申し訳ないという思い」
特に印象的なのは、レビー小体型認知症で特徴的な「幻視」についてだ。
幻視について樋口さんは、下記のように語っている。
「本物と見分けがつかない」
「虫の羽や色、ツヤ、人の表情など、すべてがリアル」
「目の前から消えて、はじめて幻視であるとわかる」
また、さらに「人の幻視は見たくない。人の幻視を見ることは、とても恐ろしい」とも書いている。
幻視とはいえ、本人にはしっかりと“見えている”ので、実体験と変わらない。
本書を読むと、幻視を見ている認知症の人に対しての、「そんな人はいませんよ」という言葉が、いかに残酷であるかがわかる。
否定の言葉で、傷ついているレビー小体型認知症の人もいることだろう。
共感する大切さを感じた。
樋口さんは、自分の症状に対する恐怖や今後の不安に押しつぶされそうになりながらも、きわめて冷静・客観的だ。
また、何とか現状を抜け出せないかと情報を集め、これはと思うものは積極的に実践している。
中でも、認知機能の改善に有効とされている「アロマ」や、人と会って笑うことは、とても効果があると語っている。
意識障害の改善や自律神経を整えるには、ツボ押しやお灸も効果的とのことだ。
<脳の病気や障害は、明日にでも、自分や愛する人に起こる可能性のあるものです。
でも、もし誰もが、正しく病気や障害を理解し、誰にでも話すことができ、それを自然に受け入れる社会なら、病気や障害は障害でなくなります>
樋口さんは50代で発症した「若年性レビー小体型認知症」であるため、高齢のレビー小体型認知症の人や、アルツハイマー型認知症の人には当てはまらない部分もあるかもしれない。
しかし、認知症になった本人にしかわからない、実体験に基づいた情報は貴重ではないだろうか。
認知症の利用者に寄り添った介護をしたいと思う人にも役立つ内容であると感じた。
著者プロフィール
樋口 直美(ひぐち・なおみ)さん
1962年生まれ。
30代後半から幻視を見るようになり、41歳でうつ病と誤診される。
薬物治療で重い副作用が生じたが、約6年間誤治療を継続。
2013年、症状から若年性レビー小体型認知症と診断され、治療を開始。
現在は、自律神経障害以外の症状は、ほぼ消え、認知機能は正常に回復している。
2015年1月、東京での「レビーフォーラム2015」に初登壇した。