日本の介護事業所が視察に訪れたときに通訳をした、スウェーデン在住の中村有紀子さん。そのことで、長く住んでいる国・スウェーデンの介護について知り、心惹かれて実際に介護職になりました。
当地の介護職の待遇や雇用条件などについては、スウェーデン人や外国人と一緒に働いてみて、はじめて知ったといいます。
日本と同様給与は決して高くない。人手不足も同じ。でも、ゆったりと働けるのはなぜだろう…?
中村さんと、スウェーデンを視察した経験もある介護専門ライフコンサルタントの木村誠さんが、今回は「介護職の働き方」について考えます。
*スウェーデンの介護に学ぶ…1回目、2回目、3回目、4回目(最終回)はこちら
○●○ プロフィール ○●○
木村 誠さん(右)
医療・介護専門ライフコンサルタント。個人を対象とする資産運用・形成などの総合的なプランを設計、提案するファイナンシャルプランニングを実践。介護福祉士・介護支援専門員・ファイナンシャルプランニング技能士。全国ケア実践者ネットワークLinkチーム天晴れ代表(東京・練馬)。スウェーデンの介護施設視察や研修の経験も持つ。
中村 有紀子さん(左)
スウェーデン在住。スウェーデンの高齢者専用住宅の介護職(無資格)、通訳、翻訳家(スウェーデン語、ドイツ語)。日本の介護事業所のスウェーデン訪問に通訳として関わるうちに、介護の仕事に興味を持ち、高齢者住宅にパートタイムの介護職として勤務するようになって2年。当地と日本の介護の違いについて痛感する。
時給で働き、給与は安いけれどどこか豊かさがある
――――正規職員と(前回記事参照)と中村さんとでは、待遇面はまったく違うわけですよね?
中村 もちろん、給与体系は全然違いますね。正規職員は月給ですし、給与は私たちより高いです。
木村 中村さんは時給で働いているんですよね?
中村 そうです。1時間128クローナ、日本円で1600円ぐらいかな。これは税金を引かれる前の時給で、私が住んでいる自治体の所得税率(*)は32%。税金が引かれた後は1000円ぐらいです。32%というところがスウェーデンですよね、税金は高いです。
スウェーデンでは、正規職員、非常勤に関わらず、税金が高いので、可処分所得はあまり高くないですね。特に介護職は、負うべき責任を考えると給与が安いな、と思います。そこは日本と似ています。
ただ、スウェーデンでは、外国人でもスウェーデン人でも、給与は同じ。それがいいですね。移民に厳しい国もありますが、スウェーデンはおおらかです。
*スウェーデンの所得税:定率の地方所得税と、一定の所得を超えるとかかる累進課税の国税所得税がある。
スウェーデンの地方所得税と国税所得税のイメージ(財務省の資料をもとに作成)
木村 むしろ介護業界は、移民を受け入れて人手不足を解消しているところがありますし、日本もいずれそうなるかもしれないですね。
中村 「自国民が上、移民が下」「正規職員が上、非常勤が下」というような上下関係は感じません。それぞれがやるべき仕事をやればいい。「パートだから……」などと遠慮する必要もないですし。
私の感覚では、「有給休暇がなくて、休むと給与が入ってこないのが非常勤」という違いだけですね。たしかに、休むと私たちは給与が出ません。でも、休むこと自体に何か言われることはありません。
スウェーデンでは、勤務時間内は非常に効率よく仕事をこなしますが、勤務時間を少しでも過ぎたら、すぐに帰り支度をします。「あと少しだから残業して終わらせよう」などと思う人はいませんし、要求する人もいません。
プライベートや人権は護られ、休みたければ休めるのです。病気のときは、正規職員は有給休暇を使わずに欠勤します。
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当日の病欠に文句を言われることはない
木村 それはいいですね。日本だと、有給を使う・使わないの前に、休みたくてもシフトのことを考えて休めなくて、具合がすごく悪くても無理やり出勤することが多いです。周囲の人にも病気をうつすし、本当は迷惑なはずですよね。
中村 スウェーデン人はそんなことはしません(笑)。具合が悪いと言うと、上司はすぐに「休みなさい、休みなさい」と言います。当日の連絡でも、もちろんOK。
すぐに私たちみたいな非常勤に電話がかかってきますよ、「今日、来られない?」って。そういうことを「迷惑」なんて思わないんです。病気なら休んであたりまえだと思っている。
また、私たちのシニア住宅には、欠勤者のピンチヒッターがいます。ベテランのすごく信頼できる方なのですが、彼女がいるから、みんな安心して休めるところもありますね。
木村 無資格の人が、アンダーナースになれる道はあるのですか?
中村 アンダーナースになるための学校があります。アンダーナースは、高校で介護・福祉を学んで実習に行った人がなれるのですが、社会人でもアンダーナース資格取得のための学校に通うなどすればなれます。
また、私の働くシニア住宅には正看護師も配置されています。アンダーナースから3年間大学に通って正看護師になる人もいますね。
日本だと、医師の権限がとても大きいですが、スウェーデンではかなりの医療行為を正看護師もできることになっています。正看護師の権限が大きいので、合理的です。
医師が不在でも、スタッフの力で利用者さんの健康を守ることができるという自負もありますね。
木村 日本では、医師、看護師、介護職というようにピラミッドができてしまう部分もありますが、スウェーデンでは看護職と介護職は緩やかに融合し、対等だという印象があります。
しっかり休めて、仕事に誇りが持てるのなら、多少給与が安くても、納得して仕事ができるということですね。
次回は、スウェーデンの税金や保険などついて迫ります。
<三輪 泉(ライター・社会福祉士)>
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