■書名:親と心を通わせて 介護ストレスを解消する方法
■著者:中村 祐介
■出版社:幻冬舎
■発行年月:2016年9月
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高齢者の本音を引き出すコミュニケーションとは?
親の介護が必要になったとき、子どもは親が安心して快適に過ごせるようにと、いろいろ考えて介護を始める。しかし介護は、年中無休で終わりが見えず、次第に家族を追い詰めていく。
ある調査によれば、身近な人を介護する人の約8割がストレスを感じ、3人に1人が憎しみを感じているという。悲しいことではあるが「介護は辛く苦しいもの」というのが常識となってしまっている。
著者の中村さんは、長年理学療法士として多くの現場で大勢の要介護者と接してきた。その経験から、介護ストレスは要介護者である親とのコミュニケーションの工夫次第でかなり軽減できるという。
<介護者は親が健康でいられるよう一生懸命管理しますが、どれほど頑張っても親はやがて衰えていき、いつかは最期の時を迎えます。
健康維持を目標に据えた介護者はやがてその虚しさに気づいて気力を失っていくのです。
そうならないよう介護者は、親の「生きがい」や「最後の願い」を引き出し、実現に向けて一緒に歩むべきなのです。それこそが介護の苦痛を中和し、介護を人生の浪費ではなく有意義なものに変える唯一の手段だからです。>
しかし、親は子どもになかなか本音を言わない。その理由を中村さんは以下のように説明している。
・迷惑をかけて申し訳ないと思っている
・我慢することに慣れている
・身体の痛みや不自由からくるおっくうな気持ちに負けている など
本音を引き出すためには、「答えずにはいられない『どっち?』という問いかけを利用する」「アルバムを一緒に整理しながら昔話を聞いてみる」などの、ちょっとした工夫が必要だという。そして、引き出した願いを実行に移すことが大切なのだそうだ。
そして一度望みが叶えば、生きる目標が次々見つかり、プラスの連鎖が起きて、介護生活が変わってくるというわけだ。
理学療法士として多くの要介護者に関わってきた中村さんは、真のリハビリについても多くのページを割いて説明している。
人がその人らしく生活するのに欠かせない権利や名誉、尊厳を取り戻すことが本当のリハビリであることが日本の介護の現場では理解されていないという。
たとえば、歩けない人にとって、「立って歩くこと」自体は絶対に必要なものではなく、車椅子で自由に出かけられ、不自由や引け目を感じることなく生活できれば、それは十分なリハビリテーションであるという。
この自力に頼るだけではなく、道具を活用して自立することこそが大切だという考えに、はっとさせられる介護職も多いのではないだろうか。
中村さんは本書のなかで、2001年にWHOが提唱した「国際生活機能分類(ICF)」には、障害をマイナスとしてのみ捉えるのではなく、プラスの側面も重視するという新しい考え方があることを紹介。
この考えに基づいたリハビリならば、障害があると何もできなくなると考えるのではなく、周囲の人の協力や道具の使用で社会参加が可能になるというプラスの面が重視される。
すると、心身とも健やかな状態を保つことができるようになり、それが本人だけではなく周囲にも好影響をもたらすことにもなると強く語っている。
肉体的、精神的に多くの苦労がかかる介護生活の中で、親子が「親であること」「子であること」を意識して密な絆を結び、幸福を感じることができるようになることが介護ストレスをなくす。
本書は、親の介護に直面している人だけではなく、現場で活躍している介護職にも介護の基本を教えてくれる一冊となるだろう。
著者プロフィール
中村 祐介(なかむら・ゆうすけ)さん
株式会社あらたか代表取締役社長。理学療法士の国家資格を取得後、病院のリハビリテーション科に勤務し、急性期から維持期までのあらゆる疾患や障害のリハビリテーションに携わる。その後、特別養護老人施設や介護老人保健施設、在宅医療などの理学療法士として経験できるすべての臨床現場を経験する。その経験から医療や介護の在り方に疑問を抱き、26歳で有限会社あらたか(現株式会社あらたか)を設立。現在では大学で経営学を学び、介護業界における新しい経営の在り方についても取り組んでいる。