■書名:認知症の看護・介護に役立つ よくわかるパーソン・センタード・ケア
■著者:鈴木 みずえ
■出版社:池田書店
■発行年月:2017年5月
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3ステップで「認知症ケアの現場」を明るく変えていく
高齢者の急増に伴い、認知症を患う人も増加している。
いまや認知症ケアは介護職にとって避けて通れないものであるが、どのようなケアをすればよいのか悩む人も多いのではないだろうか。
<認知症の人に対しては「人が人として扱われる」という当然のことが阻害されているという現実があります。それに気がつき、あらためるにはどうしたらいいのか。認知症への誤った理解に関連する社会心理を正し、認知症の人のよい状態を高めるにはどうしたらいいのか。そうした思いの中から生まれてきた、その人の人間性を尊重した新しい認知症ケアが、パーソン・センタード・ケアです。>
パーソン・センタード・ケアとは、イギリスの社会心理学者トム・キットウッド教授が1980年代に提唱したもの。
「年齢や健康状態にかかわらず、すべての人々に価値があることを認め、尊重し、ひとりひとりの個性に応じた取り組みを行い、認知症をもつ人の視点を重視し、人間関係の重要性を強調したケア」である。
この理念をわかりやすく示しているのが本書だ。
このケアによって認知症の人がどのような気持ちになるのかをイラストを通して理解できるように工夫されている。
本書は、最初に認知症ケアをする前に知っておきたいこととして、下記の3つをあげている。
・認知症は「人でなくなる」ことではない
・BPSD(認知症の行動と心理症状)を緩和するのは「ケア」である
・認知症の人が「人でいられる」ケアをする
どれも目新しいことではなく、ほとんどの介護職が知っている内容だろう。
だが、認知症の人の価値を低める行為・高める行為として具体的にイラストで紹介されると、胸にストンと落ちる。日頃の自分の勤務態度と照らし合わせることができそうだ。
実践にあたっては、認知症の人のよくない状態のサインを見逃さないことが重要で、そこからその人に必要なケアを考えていくことをめざしていく。
そして、実践をするときに有効なのが、この3ステップだ。
1. 思いを『聞く』
2. 情報を『集める』
3. ニーズを『見つける』
この3段階を踏むことで、その人の満たされない思い(心理的ニーズ)に気づき、必要なケアの方法を見つけることができるという。
それぞれの段階で「心構え」を丁寧に示し、確実に各ステップを実行できるようにされている。
たとえば、食事を取ろうとしない人に対して、食べないという現象は同じでも、「その人に手の震えがあって箸が持てない」「施設に来たばかりで気疲れや不安がある」「失認や視空間認知障害がある」など理由はそれぞれである。
その理由に合わせてケアを考えれば、箸が使えないならスプーンを用意する、気疲れがするなら個室で食事をしてもらう、失認があるなら食事の内容を伝えながら補助するというように、まったく違ったケアをすることになる。
介護者の思い込みで対処するのではなく、相手をよく知ることがいかに大切かわかる。
本書では、よいケアと悪いケアの対比をイラスト付きの見開きページで紹介していて、とてもわかりやすい。
また、認知症によく見られる行動(徘徊する、物を盗られたと言う、意欲が低下する、暴言・暴力がある等)に対するケーススタディも充実している。
見てわかりやすくコンパクトにまとめられた本書は、介護現場での疑問や不安の解決にすぐ役立てることができるおすすめの一冊だ。
著者プロフィール
鈴木 みずえ(すずき・みずえ)さん
浜松医科大学医学部看護学科臨床看護学講座教授。医科学修士。医学博士。パーソン・センタード・ケアと認知症ケアマッピング(DCM)基礎トレーナー(英国ブラッドフォード大学認定)。筑波大学大学院医学研究科環境生態系専攻博士課程修了。認知症高齢者と介護者の生活をよりよいものにするための研究に力を注ぎ、パーソン・センタード・ケアやタクティールケア、音楽・動物・ペット型ロボット療法などを取り入れたケアの質の向上のための研究を進めている。