■書名:鼻めがねという暴力 どうすれば認知症の人への虐待を止められるか
■著者:林田 俊弘
■出版社:harunosora
■発行年月:2016年7月
>>『鼻めがねという暴力 どうすれば認知症の人への虐待を止められるか』の購入はこちら
虐待につながりかねない「介護職の不適切な対応」を察知する
タイトルにある「鼻めがね」とは、パーティーグッズとして市販されているおもちゃのこと。
介護現場によっては、これを認知症のお年寄りにかけさせ、「似合ってる〜」などと言って、手をたたきおもしろがるようなことがあるらしい。
たとえ悪気はなくとも、不適切であることは間違いない。
こうした行為を見過ごすことなく、「虐待の芽」――虐待につながる可能性のある「不適切な対応」ととらえ、どうすれば虐待を防ぐことができるかを考えて書かれたのが本書だ。
著者自身が介護職や施設の経営者として経験した出来事がベースになっている。正直に包み隠さず話すことからはじまっているため、介護の現場を知る読者の心にも響くことだろう。
「虐待の芽」は、もちろん「鼻めがね」だけではない。
著者によると、「虐待の芽」となる前兆には、3種あるのだという。
<・友達口調や命令口調 ・ため息や舌打ち ・あざけりやからかい
介護現場で散見されるこれらの行為は、虐待につながる可能性のある「不適切な対応」です。もちろん、虐待に至る過程はさまざまですが、こうした萌芽をきっかけに虐待が引き起こされる場合があるため、非常に注意が必要です。>
「友達口調や命令口調」「ため息や舌打ち」「あざけりやからかい」といった行為は、まず行為そのものが不適切であることを忘れてはならない。
そしてさらには、「虐待の芽」になりがちだということ。これを知っていれば意識できる。
意識していれば、芽のうちに摘むこともできるに違いない。
この3種の前兆のうちの「あざけりやからかい」の部類に入るのが、タイトルにも取り上げられた「鼻めがね」だ。
「あざけりやからかい」については、これまであまり取り上げて議論されることはなかったという。暴言や暴力のように明らかな虐待ではないために、周囲も見て見ぬふりや作り笑いでやり過ごしてしまったことが多いのだろう。
当事者としても、大きな罪悪感が伴わないために、比較的軽い気持ちではじめてしまうのかもしれない。しかし、間違いなくそこには、虐待の芽がひそんでいる。
著者が「鼻めがね」をタイトルに使ったわけは、ここにあるのではないだろうか。
イメージしやすい具体例を取り上げることで、鼻めがねに代表されるような「あざけりやからかい」を対処すべき虐待の芽だと伝えることができる。多くの介護職に、まずは意識してもらいたいとの願いが込められている。
最後に、本書の特長として、とても読みやすいことを挙げておきたい。落ち着いて本に向き合う時間のない人でも、活字慣れしていない人でも、するすると読み進めていける。
著者が語って聞かせてくれているような文章で、内容的にも、自分自身の体験の告白からはじまるので自然と引き込まれていく。介護現場で実際に起こったことがベースにあるために、論理にかたより過ぎることもない。
介護に関係する方ならどなたにも、一読をすすめたい。一度立ち止まって考えるきっかけになるはずだ。
著者プロフィール
林田 俊弘(はやしだ・としひろ)さん
NPO法人ミニケアホームきみさんち理事長ならびに有限会社自在取締役社長。1968年、福岡県生まれ。銀行を退職後、デイサービスや特別養護老人ホームなどの介護職を経て、1999年、グループホーム「ミニケアホームきみさんち」を開設。現在、都内で計6か所のグループホームを運営する。東京都地域密着型協議会副代表、全国グループホーム団体連合会副代表としても活躍。