■書名:ケアのカリスマたち 看取りを支えるプロフェッショナル
■著者:上野 千鶴子
■出版元:亜紀書房
■発行年月:2015年3月
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ヘルパーも知っておくべき『在宅看取り』への向き合い方
「孤独死」という言葉を、たびたび新聞やニュースなどで見聞きするが、私たちがその言葉からイメージするのは、もしかしたら寂しさとか惨めさかもしれない。それに、「孤独死」をなんとなく他人事と感じてはいないだろうか。
しかし、配偶者との死別や子ども世帯との別居などから高齢者の独居率はかなり高い。また「高齢者介護は在宅で」を基本とする国の政策により、自宅で死を迎えることが多くなるのは必至といえるだろう。
「孤独死」は思った以上に身近なものなのだ。
筆者の上野さんは非婚者で子どももいない。自身の最期が「孤独死」と言われたくないとの思いから『在宅ひとり死』という用語を思いついたという。
『在宅ひとり死』をいずれ迎えることになるかもしれない上野さんが、全国の在宅医療・看護・介護の職に携わるプロフェッショナルに会い、現場を実際に見て、当事者としての切実な思いや疑問を率直にぶつけたのが本書である。
医師、看護師、ケアマネジャー、理学療法士、高齢住宅のプロデューサーなど、11名との対談集となっている。
対談は、わかりやすい言葉で語られており、ときには上野さんと話が盛り上がり、ラフな口調で本音を語っていることもおもしろい。
この対談を通して上野さんが得たのは、「在宅ひとり死はちっとも怖くない」という確信だという。
本書を最初から最後まで通して読むと、高齢者の在宅ケアには多種多様な専門家が関わっていることに改めて気づかされる。
そして、ここに登場する方々は皆、高齢者の気持ちや要望にできうる限り応えようと、工夫を重ねていることにも感心させられる。
その一方で、高齢者自身がどのような生き方をしたいのかを示し、主体的にならなければいけないとも指摘。高齢者が人任せではなく、積極的に最期まで生きられるようにするための働きかけが介護従事者には求められるのだ。
介護にかかわる人それぞれが、自分はどの役割を担うのか、誰と連携を取るべきなのかなど、自分の立ち位置を確認するきっかけにもなりそうだ。
また上野さんは、デンマークへも視察に行っており、日本との社会保障の原資の差が比べものにならないほど圧倒的だと述べている。
日本の場合、人件費は安く、働く人たちの不満も多いのが実状だ。しかし、現場のケアの質については、日本は決して劣っていないという。
社会の仕組みの改善が待たれるところであるが、その実現はまだ遠い。
そのような現状にあっても、熱意を抱いて日々の現場で努力している介護職・医療職が数多くいることは頼もしいかぎりだ。
<制度を支えるのはひとです。わたしは現場ですぐれた実践者たちに会って来ました。それがわたしの制度に対する信頼を支えています。
私の畏友、社会学者の春日キスヨさんがかつてわたしに言ったせりふが忘れられません。彼女はこう言ったのです。
「上野さんは、ほんとうに質のよいひとたちに会ってるんやねえ。だから制度が信じられるんやねぇ・・・・・」>
このような質の良い人たちが、単なるカリスマとして特別視されるのではなく、あちらこちらで実践されてこそ、誰もが安心して『在宅ひとり死』を選択することができるのではないか。
介護従事者にはぜひ一読し、そのノウハウをそれぞれの現場で生かしていただきたい。
著者プロフィール
上野 千鶴子(うえの・ちづこ)さん
1948年富山県生まれ。東京大学名誉教授。立命館大学大学院先端総合学術研究科特別招聘教授。認定NPO法人WAN(ウィメンズアクションネットワーク)理事長。日本における女性学・ジェンダー研究のパイオニア。近年は介護とケアへ研究領域を拡大。