日本は今年も、男女合わせた平均寿命84歳でトップを守り、長寿世界一となりました(*1)。ちなみに、女性は87歳で世界一、男性は80歳で8位です。
しかし、ただ長生きができればそれでいいわけではありませんよね。やはり、長生きするなら人生を終えるまで健康でいたいもの。健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)を延ばすことが大切です。
健康寿命を延ばして医療費・介護費削減を目指す
厚生労働省の発表によると、2013年の日本人の健康寿命は、男性が平均71.19歳、女性が74.21歳でした。このときの平均寿命と健康寿命の差は、男性が平均9.02年、女性が12.4年。下のグラフのように、平均寿命、健康寿命とも、徐々に延びています。平均寿命と健康寿命の差が小さければ小さいほど、不健康で過ごす期間が短いということ。政府は、2020年までに健康寿命を1年延ばすことを目標に掲げています。
健康寿命が延びれば、医療費や介護費の削減にもつながります。政府は、高齢者の介護予防や認知症の早期支援、高齢者の肺炎予防など、さまざまな方法で健康寿命を延ばすことを計画。団塊の世代が全員、後期高齢者となる2025年に向けて、医療費・介護費の5兆円削減という具体的な数値目標も掲げているのです。
埼玉県和光市を始め、各市町村が介護予防を推進
これを受けて各地での取り組みが進んでいるのが介護予防です。
中でも、介護予防と自立支援で、介護保険からたくさんの「卒業者」を出していると有名なのが、埼玉県和光市(*2)。年間、要支援者の約4割を介護保険から卒業させているといいます。
和光市では、まず在宅での生活上の不自由とその原因を詳細にアセスメント。それを元に、具体的な目標を設定します。漠然と、下肢筋力が低下しているから筋トレをして下肢筋力を強化しましょう、というようなやり方はしません。
例えば、50m先のコンビニに行って、惣菜と好きな焼酎のボトルを買って帰れることを目標に設定します。そして、50m先のコンビニまで安定して往復できる下肢筋力をつける歩行訓練をする、栄養バランスのよい惣菜の選び方を栄養士が指導する、焼酎のボトルを持って帰れる上腕筋力をつける筋トレをするというような、生活に密着したトレーニングや指導を行うのです。
場合によっては、デイサービスの理学療法士がコンビニまでの買い物に同行し、実際の活動を見てアセスメントすることもあります。
できなかったことができるようになり、スムーズに暮らせるようになることから、高齢者自身も意欲を持って介護予防に取り組むことができます。
和光市が介護保険からの「卒業」を実現できているのは、こうした実効性のある介護予防・自立支援を行っているから。最新の要介護認定率は、全国平均が18.2%のところ、和光市は9.4%と驚くほどの低水準です。元気な高齢者を増やした成果がはっきりと表れています。これにより、介護費の増大も抑えることができていることから、第6期の介護保険料も4228円と、全国平均5514円を1000円以上も下回る金額に。保険者と高齢者自身の努力によって、低い水準で抑えることができているのです。
そのほかの自治体でも、例えば大阪府大東市では、イスに座ったままできる体操教室を導入(*3)。東京都世田谷区では、日本女子体育大学と連携して区民対象の体操教室を始めたり、千葉県船橋市ではシルバーリハビリ体操教室を開催したり、神奈川県三浦市では替え歌に合わせて体操をするなど、さまざまな自治体が介護予防に取り組んでいます。
2017年度末までには、要支援者対象の予防給付のうち、通所介護と訪問介護は介護保険のサービスからはずれ、市町村事業に移行になります。介護予防によって健康寿命を延ばし、介護をできるだけ受けずにすむようにできるかどうかは各市町村の取り組みにかかってきます。事業者も市町村に任せきりにするのではなく、どんな介護予防事業なら成果を上げられるかを一緒に考えていけるといいですね。
<文:宮下公美子>
●和光市の取り組みをまとめた本『埼玉・和光市の高齢者が介護保険を“卒業"できる理由』は、こちらのページで詳しくご紹介しています。
(本の著者は、このコラムの筆者 宮下公美子さんです)
*1 日本の長寿世界一続く WHO統計、平均84歳 (産経新聞 2015年5月14日)
*2 『埼玉・和光市の高齢者が介護保険を“卒業”できる理由』メディカ出版
*3 健康寿命 延ばせるか くらし工夫、転倒防げ (日本経済新聞 2015年5月17日)