2015年6月、筑波大学などの研究チームが、アルツハイマー病の予備軍を見つけ出せる血液検査を開発したというニュースがありました(*1)。検査に必要なのは、わずか7ccほどの血液。これで特定のたんぱく質の量を調べると、アルツハイマー病の予備軍とされる軽度認知障害(MCI)か、健常かを80%の精度で判別できるという検査です。すでに、全国約400カ所の医療機関で検査を受けることができると報じています。これにより、手軽に認知症を早期に発見できるわけです。
認知症の早期発見には、訪問チームも徐々に活動開始
認知症の早期発見については、国の認知症施策(オレンジプラン・新オレンジプラン)で
「認知症初期集中支援チーム」を設置することが決められています。このチームは、2014年度には41市町村にしか設置されていませんでしたが、今年度から全国の市町村に順次設置。2018年度には、全市町村に設置するとされています。
この認知症初期集中支援チームは、認知症が疑われる人やその家族を訪問し、心身の状況などを確認。認知症が疑われる場合は、医療や介護の情報提供や家族支援など、初期の支援を集中的に行うというものです。対象は以下のような人だとされています(*2)。
<認知症初期集中支援の対象者>
40歳以上で、在宅で生活している認知症が疑われる人、または認知症の人で、
次の1,2のどちらかに該当する人。
1.以下のいずれかに該当する人
●認知症疾患の臨床診断を受けていない
●継続的な医療サービスを受けていない
●適切な介護保険サービスに結び付いていない
●診断されたが介護サービスが中断している
2.医療サービス、介護サービスを受けているが認知症の行動・心理症状が顕著で、
対応に苦慮している人
チームのメンバーは、保健師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、そして介護福祉士などの専門職。これらの専門職2名以上で、対象となる人の自宅を訪問し、まず認知症についての観察や評価を行います。認知症の可能性がある場合は、医療機関や介護サービスにつないだり、生活環境を整えたり、具体的な支援をしていきます。
チームには認知症の確定診断をできる専門医も加わり、チーム員会議等で支援活動へのアドバイスを行います。このチームでの支援は原則として最長6カ月間。それ以降は、担当ケアマネジャーや介護サービスを提供する専門職等に情報提供し、支援を引き継ぎます。
認知症初期集中支援チームで活動した、ある専門職は、ケアマネジャーなどに支援を引き継いでいくことに難しさを感じたと言います。
一つには、せっかく認知症の人と信頼関係を築いたにもかかわらず、別の支援者と新たな信頼関係を築いてもらわなくてはならないこと。新しい人や環境に慣れるのに時間がかかる認知症に人にとっては、大きな負担になるからです。
もう一つには、6カ月間の支援で得た、対象者についての膨大な情報を、支援を引き継ぐ介護関係者にどのようにして伝えていけばいいかという点。認知症の人は症状も、受け入れてもらいやすい言葉かけや態度も一人ひとり違います。引き継ぐ支援者にそれを伝えていこうとしたものの、短い時間での引き継ぎでは十分伝えきれなかったとのことでした。
初期認知症の段階で、本人から十分に話を聞いておくことは重要
ただ、この専門職は、初期集中支援の活動で、大きな意義を感じたことがあると言います。それは、認知症初期の人が本人の言葉で語った、「その人の思い、生活歴、好きなもの、きらいなもの、大切にしてきたもの、考え方など」を聞き取れたことだそうです。
認知症の介護や支援においては、その人にとっての「心地よさ」に配慮することが大切です。そのためには、その人がどんな環境、習慣、言葉のかけ方を心地よいと感じるかを把握することが重要。そして、できるだけそれに配慮して支援します。
しかし多くの場合、介護や福祉の現場で実際に支援が必要になったときには、すでに本人の認知機能は低下しています。そのため、そうした情報は家族など周囲の人から聞き取ることになります。
それが、初期集中支援の段階であれば、まだ本人の認知機能がある程度維持されていることがあります。そこで、本人から直接、さまざまな思いや経験を聞き取れたこともあったそう。それは、その後の支援に必ず生かせるだろうと語ってくれました。
介護職のみなさんも、認知症の人を介護する際は、まずできるだけ本人から話を聞くとよいと思います。そして、それを家族から聞いた話で補足していく。そうして、「その人らしさ」を知ることができれば、その後の「本人本位」の支援に生かせるのではないでしょうか。
<文:宮下公美子>
*1 認知症予備軍、血液で判定法を開発…筑波大など (読売新聞 2015年06月28日)
*2 平成26年度 「認知症初期集中支援チーム」テキストより 一部改変