今までも、記事で何度かご紹介していますが、介護事業にはさまざまな異業種が参入してきています。
ですが、外から参入する企業に刺激を受けるだけではありません。既存の介護や看護事業者が、あらたな取組に挑戦する、いわば内側から変革する取り組みも増えています。
2015年9月2日、訪問看護ステーションの看護師を中心とする小規模なチームで自律的に在宅介護・看護を運営していく事業者についての報道がありました(*)。介護業界大手のセントケア・ホールディングが設立した新会社「ちいき・ケア」の取り組みです。
これについて、医療、介護関係者の間で様々な意見が交わされています。
報道を見た介護、医療関係者からは様々な意見が
一つは、主に医療関係者やケアマネジャーではない介護関係者からの意見です。どちらかといえば現在のケアマネジャー制度に対する批判的な立場での意見。この取り組みを歓迎する声です。
「看護師がトータルに見ていけば効率的」
「福祉用具の導入やサービス変更のときも、これなら話が早い」
「医療をわかっている人が全体を動かす方がいい」といった意見です。
一方、ケアマネジャー側からは、
「ケアマネジャーは介護だけをマネジメントするわけではない」
「ケアマネジメントは介護計画ではない」と批判的な意見も。
「一面的な見方で、ケアマネジャーを排除しようとしていないか」という疑問の声も上がっています。
そのほか、
「とりあえずやってみてから検証すればいい」
「様々な支援の選択肢が用意されるのは利用者にとってはいいこと」
「本当に看護師が掃除をするのか?」といった、意見もあります。
記事では介護計画作成から一貫して訪問看護師が手がける、と書かれていたことから、この部分についての意見が多く聞かれました。ただ実際にはそうした構想を持ちつつも、当面は外部のケアマネジャーが作成したケアプランに基づいてサービス提供するとのことです。
もとになったのはオランダのケア組織「ビュートゾルフ」
この事業者の試みは、オランダの「ビュートゾルフ」という組織による在宅ケアのコンセプトを取り入れたものです。ビュートゾルフのメンバーの多くが看護師、それ以外は主に介護職やリハビリ職です。1人の利用者のケアは、看護師を中心とした少人数のチームが担当。そのチーム内で、ケアマネジメントから介護、看護、リハビリ、予防までを一貫して提供します。
意思決定が早く、さまざまな事業者の複数の担当者が入れ替わり立ち替わり訪れるわずらわしさ、効率の悪さが軽減されているのがいいところ。定期的にチームでのミーティングを設けて意見交換を行ったり、利用者情報を端末で共有するなどのシステムも活用。こうしたやり方をすることで、ケアを受けている利用者だけでなく、働いている看護師らの満足度も非常に高いところが、ビュートゾルフの大きな特徴です。そういう意味で、非常にいい仕組みだと言われており、今回、このコンセプトを取り入れた取り組みが出てきたのではないかと思います。
日本とは違う、オランダのケア職養成課程
ビュートゾルフのケアを理解する上で、もう一つ重要なポイントがあります。それは、オランダのケア職の養成の仕組みです。オランダでは、介護・看護職の養成課程がレベル1~6まであり、共通した科目を積み上げるように学びます。どこまで学んだかによって、担当できる仕事の責任や複雑さが違ってきます。
レベル1のケアヘルパーからレベル4の看護職教育までが中等職業教育レベル。レベル5は学士レベルの看護職で、難しいケースのケア提供をサポートしたり、多職種協働のマネジメントをしたり、指導的役割を果たします。そしてレベル6は修士課程レベルとなっています。看護と介護がまったく別系統で養成される、日本の養成課程とはかなり違いますね。
介護を学んだ上で看護のことを学ぶため、ビュートゾルフのケア担当者は、日本流に言えば看護職ではなく、介護・看護職といえます。だからこそ、1人で看護のことも介護のことも担える、という部分はあるかもしれません。
また、もう1点付け加えるなら、ビュートゾルフのケアには、在宅ケアの経費削減につながるという大きなメリットもあります。このケア方法が注目されているのは、それも大きなポイントになっているように思います。
日本でのビュートゾルフ風ケア提供が、どのような成果を生むのか。利用者がどう受け止めるのか。ケア経費の削減につながるのか。これからの動きに注目していたいですね。
<文:宮下公美子>
* 在宅介護、看護師が一貫で セントケアHD (日本経済新聞 2015/9/2 )
* 在宅医療先進国オランダ式の訪問看護ステーションで新しい働き方の看護職(ちいきナース)を募集開始