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2015年11月05日

「もしかしてアルコール依存症?」という利用者がいたら…介護職の対応法 | 「介護求人ナビ 介護転職お役立ち情報」

風呂上がりにはビール。うれしいときには祝杯。ストレスはお酒で解消。生活のいろいろな場面で飲むお酒は、適度な量なら生活を楽しくしてくれます。しかし、度を超した飲酒は体にも生活にも、悪い影響を与えます。特に、高齢になってからお酒を飲む量が増えていくことで、アルコール依存症になる人が増えているのです(*1)。

在宅介護に携わっている人は、飲酒の問題がある高齢者と接することも多いのではないかと思います。日本経済新聞の記事にもあるように、アルコール依存症になるきっかけとして多いのは、定年退職して仕事から離れたり、奥さんを亡くしたりして、生活の大きな柱を失うこと。それでも、友人や趣味の多い人は大丈夫かもしれません。しかし、仕事に一途に打ち込んできた人ほど、やるべきことのない張り合いのない生活をつらく感じるもの。また、奥さんを亡くした男性は、栄養をとることや健康を保つことへの関心を失いがちです。きちんとした食事をとるのが面倒で、簡単なおつまみとお酒で済ませてしまう。そんな生活を続けていると、いつの間にかアルコールなしではいられない体になってしまいかねません。


飲むまいと思っても飲んでしまうのがアルコール依存症

q1では、どういう状態になると、アルコール依存症なのでしょうか。下表はWHO(世界保健機関)が作成したアルコール依存症の診断基準です。

■アルコール依存症(alcohol dependence syndrome)のICD-10診断ガイドライン

「過去1年間に以下の項目のうち3項目以上が同時に1ヶ月以上続いたか、または繰り返し出現した場合」

(1)飲酒したいという強い欲望あるいは強迫感
(2)飲酒の開始、終了、あるいは飲酒量に関して行動をコントロールすることが困難
(3)禁酒あるいは減酒したときの離脱症状
(4)耐性の証拠(酩酊効果を得るための量が以前より明らかに増えているか、または、同じ量では効果が明らかに下がっている)
(5)飲酒にかわる楽しみや興味を無視し、飲酒せざるをえない時間やその効果からの回復に要する時間が延長
(6)明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず飲酒
(*2 厚生労働省 みんなのメンタルヘルス アルコール依存症 より)

アルコール依存症の特徴は、飲酒について自分の意思でコントロールできなくなることです。自分でも飲んではいけないと思っているのに、飲みたいという衝動を抑えられない。1杯だけでやめようと思っているのに、記憶がなくなるほど飲んでしまう。それが繰り返される人は、アルコール依存症を疑った方がよい状態です。

しかし、お酒をやめたくない本人は、「自分は何の問題もない」「何も困っていない」と、飲酒の問題を認めようとしません。そして、依存が深まっていくと、ありとあらゆる手を使ってお酒を飲もうとします。借金をする。嘘をつく。無銭飲食をする。万引きをする――アルコールなしではいられない脳の状態になり、何よりもお酒が大事になってしまうのです。周囲の人は、これは意志の弱さや人間性の問題ではなく、脳がアルコールに冒されたことで引き起こされている問題であることを理解することが大切です。


アルコール依存症の高齢者を見つけたら、巻き込まれている家族をまず支援機関につなげること

q2介護している高齢者に思い当たる人はいませんか?
アルコール依存症は、周囲の人を巻き込んでいく病気です。周囲の人に自分の飲酒問題の後始末をしてもらいながら、飲み続けようとするのです。そのために、巻き込まれた家族が疲れ果て、家族関係が壊れてしまうことも少なくありません。

アルコール依存症の人は自分で起こした問題の責任を自分でとり、自分の飲酒の問題と向き合わない限り、治療のスタート地点に立つことができません。ですから、まず家族や周囲の人間が、踏み倒した飲食代を本人の代わりに払いに行くといった後始末をするのをやめることが大切です。

飲酒の問題を認めようとしない本人が、アルコール依存症を扱っている精神科のクリニックなどを自発的に受診することはまずありません。そこで、とりあえず家族だけで受診することを勧めてみてください。
アルコール依存症を扱うクリニックでは、家族向けの講座などを開催しているところもあります。そうした講座に通って、まず家族がアルコール依存症について勉強することを勧めてください。本人が飲酒で起こした問題を、周囲が後始末することで飲酒問題をより大きくしてしまっていることがよくあります。

そのことを理解し、アルコール依存症者への正しい対応を学ぶことで、本人が飲酒の問題と向き合えるようにする。それがアルコール依存症治療の第一歩なのです。

<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>

*1 老後にアルコール依存症 認知症リスク高く 退職・死別きっかけ、兆候あれば早期治療 家族の支援大切(日本経済新聞 2015年10月15日)
*2 みんなのメンタルヘルス アルコール依存症(厚生労働省)

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