最近増え続けている、うつなどの気分障害を持つ高齢者。利用者の支援をしていても、もしかしてうつ? と思うことがあるかもしれません。2016年1月、千葉大学などのグループが、高齢者のうつからの回復には、人とのつながりが決め手になるという研究結果を発表しました(*1)。
また、一人暮らしでいつも一人で食事をしている高齢の男性は、誰かと一緒に食事をしている人に比べて、2.7倍もうつになるリスクが高いこともわかっています(*2)。こうした研究結果から、一人暮らしの高齢者への支援の重要性が、改めて認識されることになりそうです。
「1人で頑張りたい」「1人では不安」の間で揺れ動く気持ち
一人暮らしの高齢者、特に男性の一人暮らしの場合、支援に入ろうとしても関係をつくっていくのが難しいことがあります。男性は人に頼るのが苦手な人が多いもの。要支援の一人暮らしの男性が、どのようにしてサポートを受け入れるようになるかの研究(*3)では、日常生活上の困難を感じても、「人はあてにできない」と思い、できる限り自分で対処しようとしていることがわかりました。
研究に協力した14人の男性たちは、「一人暮らしを支える安心感」 「自分の生活ペースを守りたい」 「家長としての役割を果たしたい」 「今は自立できているという自負心」 「自立していたいという望み」から、一人暮らしを継続したいと考えています。
つまり、「自分一人でできる」というプライドが支えになり、実際、「一人でできている」という事実が一人暮らしを継続させているわけですね。また、家長として家を守り続けたいという思いは、男性ならではだと、この研究では指摘しています。支援に当たるときには、その人が大切にしているそうした思いにも配慮できるといいですよね。
一方で、「一人で暮らすつらさ」「緊急時の不安」「さらなる自立度低下への不安」「先行きの不確かさ」など、一人で暮らしを続けることへの不安も語られています。この二つの気持ちの間で揺れ動きながらも、「前向きな気持ちを持つ努力」をすることで、なんとか一人暮らしを続けていることが研究で明らかにされました。
相手が受け入れやすいアプローチで支援を
どれほど「一人で大丈夫だ」と強がっている人でも、どこかで不安を感じているものです。しかしプライドもあり、不安や困りごとを簡単には口にしない方もいます。支援者としては、相手のプライドを尊重しつつ、感じている不安を軽減する手伝いができることを上手に伝えていきたいですよね。
そのためには、最初から相手を支援する、というスタンスをやめるというのも一つの方法です。たとえば、まず、いい関係をつくるために相手が得意な分野で力を貸してもらってはどうでしょうか。大工仕事をしてもらったり、植木の剪定をしてもらったり。あるいは、経理やパソコンなど、現役時代のスキルを生かせる役割を担ってもらうのもいいかもしれません。こちらが支援してもらうという関係からスタートし、「助けてもらったのでこちらも何か役に立ちたい」と言えば、相手も支援してもらうことへの抵抗が薄れます。
そんなふうにいい関係をつくり、支援が必要な人に、必要な支援をスムーズに受け入れてもらえるようにしていきたいですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*1 高齢者うつ 回復の決め手、やはり「人とのつながり」(毎日新聞 2016年1月9日)
*2 独居・高齢男性の孤食、2.7倍うつ誘発 千葉大など、3万7000人調査 (朝日新聞デジタル 2015年10月28日)
*3 要支援一人暮らし男性高齢者のサポート獲得プロセス (日本看護研究学会雑誌 Vol. 35 No. 5 2012)