いよいよ来た軽度者向けサービスの見直し
いよいよ来たか――。介護関係者からそんな声が上がったのが、2016年1月下旬の報道です。読売新聞の見出しには、「介護保険、調理など軽度者向けサービス見直しへ」の文字が踊りました(*)。要介護1・2の人に向けた訪問介護(ホームヘルプ)のうち、調理や買い物などの生活援助サービスを、介護保険から切り離す検討をするというのです。
この方向性はかなり前からささやかれていたもの。2015年秋には、財務省から社会保障改革の工程表も発表されています(詳しくは
こちらの記事をご覧ください)。
同じようにずっとささやかれていた、要支援者の一部サービスの切り離しが実現したことから、今回の検討も現実となる日はそう遠くないように思われます。
軽度者が多く利用する生活援助サービスは自立支援につながっていない?
ところで、軽度者は実際、どれぐらい生活援助サービスを利用しているのでしょうか。
要介護度別に、利用する訪問介護の内容割合を調べたデータがあります。それを見てみると、訪問介護サービスの中で、生活援助のみを利用している人は要介護1の利用者のうち65.8%、要介護2では55.5%となっています。
要介護状態区分別にみた訪問介護内容類型別受給者数の利用割合(平成26年度 介護給付費実態調査の概況 厚生労働省)<クリックで拡大>
生活援助を利用する割合は、要介護度が高くなるにつれて減っていき、身体介護を利用する割合が高まっています。つまり、要介護度が軽い方が、生活援助へのニーズが高いということ。軽度要介護者は生活援助のサービスで生活を支えてられている、とも言えそうです。
にもかかわらず、国が軽度者の生活援助サービスを介護保険から切り離そうとしているのは、生活援助サービスが「家政婦」的に使われ、自立支援につながるサービスとなっていない面があるから。要支援者に対する介護予防訪問介護が介護保険から切り離されたのも、同じ理由です。要支援者の利用する訪問介護がほとんど生活援助であり、介護予防につながるサービスとなっていないと見なされたからでした。
客観的な成果を示せるサービス提供が求められている
なぜ、国はこのように考えたのでしょうか。
それは、介護予防や自立支援につながるサービス提供がされていれば、徐々に自分でできるようになり、生活援助サービスから“卒業”できる人が一定数いるはずだからです。実際、和光市のように、「サービスは必要なときに必要なだけ使うもの」と、介護事業者や住民の理解が進んでいる市町村では、これを実現。毎年、多数の介護保険”卒業者”を出しています。新たに要支援・要介護になる人がいても、“卒業者”がいることで、要介護認定率も、全国平均で18.2%のところを、和光市は9.4%(平成26年度)に保っています。
しかし、多くの市町村では漫然としたサービス提供が続いている、と国は評価したのでしょう。「実効性のあるサービス提供ができていない」→「適正化の必要がある」→「介護保険サービスからはずす」という判断がされつつあると思われます。
話はこれで終わりではありません。
おそらく、同じように実効性のないサービスは、今後も介護保険からはずされていく方向にあると考えられます。前述の財務省の社会保障改革の工程表では、すでに軽度者対象の福祉用具の一部自己負担化も「速やかに検討・実施すべきもの」として挙げられています。もしかしたら、通所介護等も、客観的に評価できる成果を示さなければ、財務省に目を付けられるかもしれません。
客観的な成果を出すサービスの提供。社会保障費削減の大波がやってくる今後、介護職、介護サービス事業者には、それが求められているのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
●こちらの記事も参考に
→訪問介護の生活援助は家事代行と同じ?ヘルパーならではの専門性とは
*介護保険、調理など軽度者向けサービス見直しへ (読売新聞 2016年1月20日)