2016年03月10日

高齢者が金銭被害にあってしまった…そのとき、介護職や施設がすべきこと | 「介護求人ナビ　介護転職お役立ち情報」

一人での金銭管理が不安になってきた。身寄りがないから、もしもの時のことを考えて、誰かに葬式や納骨のことを頼んでおきたい――。

介護の仕事をしていると、利用者からそんな話を聞くこともあると思います。認知症の人には、生活上の手続きや財産管理などを代わりに行ってもらう成年後見制度を利用する人が増えてきました。また、身寄りのない人には、施設入所や介護サービスの契約時の身元保証や財産管理を行っている民間機関を利用する人もいます。

2016年1月、そんな身寄りのない高齢者などを支えるはずの民間機関の一つ、公益財団法人「日本ライフ協会」で、不祥事があったことが明らかになりました。契約者から預かったお金のうち、約2.7億円を関連法人の運転資金として不正流用していたのです（＊1）。2月末、民事再生手続き中のライフ協会から事業を継承する法人は決まりましたが、契約者の追加支出が生じる見通しのようです(＊2)。老後の安心のためにお金を預けた契約者は、このようなことになり、どれほど不安な思いでいるでしょうか。

被害に遭い傷ついた本人の気持ちに配慮する

こうした、高齢者に非常に大きなダメージを与える出来事があった時、みなさんはどう対応していますか。

たとえば、オレオレ詐欺。大きな被害に遭った高齢者の中には、悲しいことに自殺してしまった人もいます。それは被害が大きかったことだけが理由ではありません。家族など周囲の人たちから「なぜ詐欺だと気づかなかったのか」「あれほど気をつけろと言っていたのに」などと責められ、「死んだ方がまし」と考えてしまったケースが少なくないと言います。

詐欺によって資産を失ってしまったら、本人も家族も、周囲の人たちもショックを受けます。しかし、誰よりもショックを受け、傷ついているのは被害者本人です。家族、介護関係者など、周囲の人たちは、そこをきちんと認識する必要があります。認識していれば、「なぜ気づかなかったのか」と責めるような言葉や、「あれほどマスコミでも気をつけろと言っているのに、だまされるなんて」といった、あざけるような言葉は出てこないはずです。反対に、腫れ物に触るようにされるのも、被害を思い出し、つらいことかもしれません。

周囲が考えなくてはならないのは、どうすればこれ以上、本人が傷つかずにすむか。そして、少しでも精神的な負担を軽くするためには何ができるか、ということです。

ある施設での被害者への対応

ある施設では、日本ライフ協会と契約している入所者が複数いることがわかりました。報道を見て動揺する入所者たちに対し、まず施設長が、この協会がどうなろうとも、施設での生活を守れるよう最大限努力するから安心するように、と伝えました。

次に、施設の顧問弁護士に相談。弁護士の助言に従い、日本ライフ協会に対して現状と今後の対応についての説明を求めました。そして、説明に来た担当者の話を施設長などが入所者とともに聞く場を設けたと言います。
また、被害者である入所者たちのケアに当たっている介護職にも事情を伝えました。そして、不安の訴えが募るなど、しばらく精神的に不安定になる可能性があることを考慮。不安な気持ちを、腰を据えて受け止めていくよう伝えました。

入所者たちの今後はまだ不透明です。しかし、生活を守ると施設のトップがはっきりと伝えたことは、入所者たちにとっては大きな安心材料だったことと思います。そして、被害者の不安を受け止めてくれる環境があれば、時間はかかっても落ち着いていけるのではないかと思います。

＜文：宮下公美子　(社会福祉士・介護福祉ライター)＞

＊1 日本ライフ協会　高齢者預託金２．７億円を流用　（毎日新聞2016年1月19日）
＊2 日本ライフ協会　事業存続へ　福岡の法人に譲渡合意（毎日新聞2016年2月26日）

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