他業界大手企業の介護業界への参入が相次ぐのは
このところ、他業界の大手企業による介護業界参入が相次いでいますね(*1)。昨年ワタミの介護事業を買収した損保ジャパン日本興亜ホールディングスは、2016年3月には、メッセージ(2016年7月1日付でSOMPOケアメッセージに
名称変更)を子会社に。2013年に有料老人ホームを買収したソニーが、2016年4月には有料老人ホームを新規開設します。
長谷工コーポレーションは、2016年4月にも、横浜や川崎で認知症デイサービスを運営する介護事業者を買収する計画です(*2)。長谷工コーポレーションは、すでに子会社で有料老人ホームやデイサービスを運営していますが、さらに幅広いサービスの提供を進めていく方針のようです。
なぜ、他業界から、大手企業が次々に参入してくるのでしょうか。
少子高齢化の進展により、日本の人口はすでに減り始めています。子どもや若者、働き盛りをターゲットにした市場は、すでに多くが縮小に転じています。一方、高齢者ターゲットの市場は、高齢者人口がピークを迎える2040年までは成長が見込めそう。
そのため、若者や働き盛りをターゲットにした市場では、今以上の収益を望めない企業が、しばらくは収益増の見込みがある介護業界に参入してきているのです。
地方では特養に空室、大都市圏では老健の稼働率が低下
しかし、問題は高齢者人口もいずれ減っていくということです。すでに地方都市では高齢者人口が減り、特別養護老人ホーム(特養)には空きが出始めています。大都市圏でも、特養の入所待ち施設のように利用されていた介護老人保健施設(老健)の稼働率が下がり始めています。
なぜなら、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や有料老人ホームなどが急激に増え、選択肢が広がってきたことが一因。費用的にも、入居しやすいところが増え、特養に入れない人たちが、老健よりもそれらを選ぶケースが増えたからです。
今後は大都市圏でも特養のニーズが下がり、空きが出るようになるかもしれません。
介護業界でも、急激にニーズが変化しているのです。老人ホームなどの箱物(建造物)を次々と建てていけば、近い将来、必ずつくりすぎで余ってきます。それより、どうすればお金をかけずに介護できる場を作り、高齢者を支えていけるかに知恵を絞りたいですよね。
原価引き下げと効率化以外の収益性向上は可能?
多額の初期投資をして箱物を作ったら、その投資を回収する方策を考えなくてはなりません。介護はサービス業ですが、介護保険という縛りもあり、残念ながらお金儲けには適していません。
収益性を高めるには、一般的には原価を引き下げ、効率を上げる必要があります。しかし介護事業では、最も大きな原価は人件費です。これを安く抑えようとしてきた結果が、今の人手不足を招いていることは明らかです。
また、効率性は、追求しすぎると間違いなく介護の質を低下させます。そして質の低下は、介護の分野においては、利用者の尊厳や健康、命にもすぐに直結します。効率性と介護の質は、なかなか相容れないのです。
新たに参入してくる大手企業も、こうした特性を理解しながら、進めていくことになるため、決してラクな道ではないでしょう。
ただ、大手企業には企業としての「体力」があります。体力のない中堅中小企業ではチャレンジできないような、実験的、先進的な取り組みもできるかもしれません。
今までの介護業界にない発想で、効率性と介護の質を両立できる、新しい収益構造が見いだされる可能性もあります。期待して、今後の展開を見守っていきたいですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*1 介護業界、体力勝負に ソニーが4月開業のホーム公開 (日本経済新聞 2016年3月11日)
*2 長谷工、高齢者事業を開拓 認知症向けデイサービス買収 (日本経済新聞 2016年3月15日)
<参考>
平成24年版 高齢社会白書(全体版) > (2)将来推計人口でみる50年後の日本 高齢世代の人口比率