2016年度になったばかりなのに、厚生労働省の審議会では、2018年度の介護保険法改正・介護報酬改定に向けた議論がすでに始まっています。3月末、どのようなことが検討項目となっているかが報道されました(*1)。
2018年度改正は、医療報酬との6年に一度の同時改定になります。ちょうど、医療計画、介護保険事業計画、医療費適正化計画なども一斉に見直す時期。かなり踏み込んだ、介護事業者には厳しい制度改正になるだろうと、以前から言われていますよね。
2018年度改正における検討項目は…
2016年2月時点で挙げられていた、次期改正の検討項目(*2)は、下記の通りでした。
【地域包括ケアシステムの推進】
1.地域の実情に応じたサービスの推進(保険者機能の強化等)
2.医療と介護の連携
3.地域支援事業・介護予防の推進
4.サービス内容の見直しや人材の確保
【介護保険制度の持続可能性の確保】
1.給付のあり方
2.負担のあり方 その他の課題
【その他の課題】
1.保険者の業務簡素化(要介護認定等)
2.被保険者範囲 等
このうち、「介護保険制度の持続可能性の確保」という視点から、報道でも取り上げられた、給付を抑制し、保険料収入を増やす案が出されています。軽度者向け生活援助サービスの介護保険からの除外に加え、給与水準の高い大企業社員の保険料負担を引き上げる、なども案として出ているようです。
また、「地域包括ケアシステムの推進」では、特に重要な検討項目となりそうなのが「医療と介護の連携」です。
療養の場は在宅へ。介護と医療の連携はますます重要に
まず医療分野で、医療機関の再編が行われていきます。高度急性期病院、急性期病院、回復期病院、慢性期病院に機能分化が進められていくのです。それぞれの地域で機能ごとに必要な病床数が算出され、病床数が絞り込まれます。これにより、急性期病院が回復期病院への転換を迫られるなど、病院は厳しい生き残りの時代となっていくでしょう。
基本的な考え方としては、医師や看護師の配置数が多く、高額な医療費のかかる病院をできるだけ少なくすること。そして、患者の在院日数を減らすこと。医療費を削減していくため、これらがますます進められていきます。
療養型病床などの慢性期病院の数は、今後さらに減らされていきます。医学的管理がそれほど必要ないのに、退院先が見つからないために入院している患者が一定数いると考えられているからです。そうした患者を在宅や施設、高齢者住宅などに退院させていくことで、病床数は削減できると見込まれているのです。高齢者の療養の場は、今後、病院ではなく在宅や施設になっていくでしょう。
一方で、現在でも、「この状態で退院?」というような患者は多いと言われています。しかし、今後は急性期病院からいきなり施設や在宅、というケースがいっそう増えていくことでしょう。介護職には、それに対応できるだけの介護技術と病気についての知識が、さらに求められていくことになります。
医療が介護に歩み寄るようになってきた
また、すでにあちこちの市町村で在宅医療・介護連携推進事業が始まり、多くは医師会が中心になって医療と介護の連携に取り組み始めています。最近、介護職からよく聞くのは、「医療と話がしやすくなった」「医療が歩み寄ってくれるようになった」という言葉。在宅では、徐々に医療と介護が、“患者=利用者”という同じ方向を向き、連携しやすくなってきているようです。
「命」を守る医療と「生活」を守る介護では、当然、視点が異なります。しかしその視点の違いを互いに尊重できれば、2倍の視野の広さで“患者=利用者”を支援することができます。
2018年度の制度改正では、介護事業者や介護職にとって、厳しい状況が生まれるかもしれません。それでも、守るべき利用者のために何ができ、何をすべきか、という視点は忘れずにいたいもの。そして、医療と共に制度改正の荒波を乗り越えられる関係を作っておきたいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*1 介護保険 高収入ほど負担(日本経済新聞2016年3月26日)
*2 主な検討事項について(案)(介護保険部会(第55回) 資料2 平成28年2月17日)