2016年5月末、経済財政運営の基本方針(骨太の方針)が閣議決定されました。
介護業界に関係あるの?と思う方もいるかもしれません。
しかしこの方針では、経済成長と財政の健全化を達成するため、「聖域のない」歳出改革を打ち出しています。
当然、その中には医療や介護も含まれているのです(*1)。
今回、介護分野で解決すべき課題としてあげられたのが「地域差の縮小」です。
要介護認定率や1人あたりの介護給付費には、地域によって大きな差があります。
1人あたりの給付費で言えば、最も少ない埼玉県が年間約19万円なのに対し、もっとも多い沖縄県では約32万円。
1.6倍もの開きがあるのです。
こうした差を縮めていくことを目的に、「徹底的な見える化」が進められることになりました。
データを「見える化」するシステムとは
厚生労働省のサイトでは、“地域包括ケア「見える化」システム”がすでに稼働しています(*2)。
これは都道府県や市町村で介護保険事業計画などを策定したり、実行したりするときに役立てる情報システム。
登録すれば、行政職員や介護関係者だけでなく、一般市民も見ることができます。
提供されているデータは、1人あたりの月額給付額、要介護(要支援)認定者数、要介護(要支援)認定率、施設・居住系・在宅サービスの受給率、保険料額の推移など様々。
見たいデータと地域を指定すれば、グラフなど見やすい形で示され、いくつかの地域を比較検討することもできます。
また、キーワードを入力すれば、先進の取り組み事例を検索し、見ることもできます。
厚生労働省としては、こうしたデータを地域の関係者みなで閲覧することで課題を共有し、給付の適正化に取り組むことを期待しているようです。
たとえば、要介護認定率が高い場合は、認定調査の点検を行って要介護認定の適正化を図る。
1人あたりの介護費用が高い場合や、在宅サービスで特定のサービスの利用割合が高い場合は、ケアプランの点検を行う。
そんな例が示されています。
「適正」を見極められるのか
そして、ここで気になるのは、「要介護認定の適正化や、給付の抑制」などの成果を出した自治体に、手厚い財政支援をするなどの仕組みが検討されていること。
2016年度末までに、制度的な枠組みについて検討して結論を出すとしています。
介護保険では、これまでも「適正化」の名の下に、サービスが削減されてきたという現実があります。
適正化できた自治体に財政支援がされるとなると、闇雲に削減するようなことにならないでしょうか。
そもそも、1人あたりの介護給付費が少なければ少ないほどいいのかというと、必ずしもそうとは言えません。
給付費が少ない地域には、サービスが不十分であるために、給付額が少ないところもあります。
また、無駄は省かなくてはなりませんが、必要なサービスまで削減することは「適正化」ではありません。
大切なのは、自分の地域ではどの程度の給付額、介護保険料が「適正」なのかをきちんと分析し、見極める力です。
各自治体にそうした力があるのか…。
やや不安を覚えます。
要介護認定率についても同様です。
他と比べて高すぎるから認定基準を厳しくして低くしようと、要介護認定率を低くすることが目的にならないでしょうか。
また、認定率の適正化以前に、認定調査員の認定調査スキルや、最終的な要介護度を決める二次判定を担う介護認定審査会の判定が適正化(平準化)が図れているかという検証も必要です。
調査と判定にばらつきがあれば、要介護認定率に差があっても当然のこと。
どれだけ介護予防や自立支援にしっかり取り組んだとしても、状態を正しく評価する認定調査・判定が行われなければ、成果が認められません。
様々なデータを分析し、そこから見えてくるものももちろん大切です。
しかし、数値化できないものの「適正」も、きちんと判断してほしいですね。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・介護福祉ライター)>
*1 介護費抑制の自治体に手厚く財政支援 骨太方針原案 (日本経済新聞 2016年5月16日)
*2 地域包括ケア「見える化」システム