身近な病気なのに意外に知られていないアルコール依存症。その解説と注意をまとめた一般市民向けガイドライン(*)の発表を受けて、2回に分けて、アルコール依存症について紹介しています。
前回は、単なる大酒飲みとアルコール依存症の違いは、「飲みたいという衝動をコントロールできるかどうかである」と伝えました。また、多量の飲酒が習慣化すると、うつ症状を引き起こしたり、高齢者では認知症のリスクを高めたりすることも紹介しました。今回は、アルコール依存症が疑われる人に、どう対応すればよいかについて伝えます。
“命綱”のお酒をいきなり取り上げようとしては逆効果
介護職として支援している対象者の中に、飲酒の問題を抱えた人がいる場合。いつ頃から飲酒の問題が出てきているかを探ってみます。長年の飲酒習慣は、簡単にそれを変えていくことはできません。腰を据えて対応していく覚悟が必要になります。一方、たとえば最近妻を亡くしたなど、何かきっかけがあって飲酒量が増えている場合。介入が早ければ早いほど、早期回復の可能性が高まります。
アルコール依存症からの回復には、最終的にお酒を断つことが必要です。しかし、長年、お酒に支えられてきた人は、いきなりお酒と縁を切るのはなかなか困難です。そこで、まずは飲酒量を少しずつ減らしていくことを考えます。
といっても、いきなりお酒を減らすよう求めてはいけません。まずは、その対象者の話にじっくりと耳を傾けます。そして、たとえお酒で大変な問題が起きていたとしても、お酒に頼らずにいられない寂しさ、つらさを理解し、共感することが大切です。
信頼関係ができていないうちに、その人にとっての“命綱”とも言えるお酒を取り上げようとすれば、怒りと反発を招くことは間違いありません。結果、かえって飲酒量が増えてしまうこともあるのです。
依存症に詳しいある研究者は、依存症は、特定の何かにしか依存できないために起こる、と指摘しています。つまり、ストレス解消の方法がお酒だけではないと気づければ、お酒だけに頼らず、飲酒量を減らすことができるかもしれない、というわけです。支援者の役割は、一人で対象者を支えることではなく、お酒以外に頼れるものを本人と一緒にできるだけ多く見つけていくことになります。
「何があっても見捨てない」というメッセージを伝える
そのために大切なのは、こまやかな目配りと忍耐強い励ましです。お酒を飲みたい、という衝動が起きたときに、お酒以外のものに目を向けさせる。お酒を少しでも減らすことができたら、それを一緒に喜ぶ。こうした対応を根気よく続けていきます。
アルコール依存症を持つ人は、人から大切にされているという実感を持てないために、自分でも自分のことを見捨てて飲酒にのめり込んでしまうのです。そうした人に、あなたをちゃんと見ていますよ、あなたを大切に思い、心配していますよ、というメッセージを伝え続ける。時間はかかっても、こうした対応から、お酒だけに向かっていた視線を他に向けさせることができるのです。
そして大切なのは、励まし続け、回復への道を進んできたのに、再び大量飲酒で問題を起こしたときの対応です。長年、問題のある飲酒行動を続けてきた人は、どれだけ励まされていても、お酒を減らしていくことに大きなストレスを感じます。そのストレスが何かのきっかけで限界を超え、再び大量飲酒を引き起こすこともあります。
このとき、必要なのは、「また一緒にやり直しましょう。何度でも支えていきますよ」という支援者の言葉です。問題のある飲酒行動を続けてきた人は、失敗すると見捨てられる経験を重ねてきた人が多いものです。そのために、自分自身のことも、人の支援も信じられなくなっているのです。だからこそ丁寧に「それでも支え続ける」という強い意志を示すことが大切です。この人となら、やり直せるかもしれない。今まで止められなかったお酒を止められるかもしれない。そう思ってもらうことが、アルコール依存症からの回復への大きな一歩となるのです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*市民のための お酒とアルコール依存症を理解するためのガイドライン