2016年09月15日

介護現場に笑顔はある？介護職ができる、ちょっとした心掛け | 「介護求人ナビ　介護転職お役立ち情報」

臨床美術（クリニカルアート）をご存じでしょうか。絵を描いたり、工作をしたりすることを通して脳を刺激し、認知症の予防や症状の改善、ストレス解消などを図るアートプログラムです。
1996年に日本で考案され、臨床美術のプログラムを実践していく民間資格「臨床美術士」の養成も行われています（＊）。当時は、まだ認知症の治療薬がなかった時代。認知症の診断後、何の対応もできなかったことから認知症の症状を改善することを目標に考案されました。今では認知症を持つ人だけでなく、発達が気になる子どものケアや社会人のメンタルケアにも用いられています。

その人らしい良さを見つけ、伝え合う

ある介護事業所では、その事業所を利用する高齢者、近所の子どもや住民、介護職などが集まり、臨床美術士を招いて臨床美術に取り組んでいます。年齢や性別、病気、立場、絵のうまい・下手に関わらず、誰でも気軽に取り組めるのが臨床美術のいいところ。
テーマを決めて描き始めても、違うものが描きたくなればそれでもいい。犬というテーマでも、猫に見えるものを描いてもいい。このプログラムでは、その人が描きたいものを自由に描くことを否定されません。同じ花を見ながら絵を描いても、参加者それぞれが描く絵は違ってきます。そうした多様性を互いに認め合うことも、このプログラムの目的の一つです。

全員が描き終えると、描いた作品を並べて鑑賞会を行います。そのとき、臨床美術士が中心となり、参加者それぞれがその作品のすてきなところ、個性的なところを言葉で伝えます。「上手」とほめるのではなく、「ここがすてき」と伝えるのがポイントです。どんな作品も、つくった人のその人らしさが表現されているものです。そこに表わされたその人らしさこそがすてきだと、参加者みんなで認め合うのです。

認知症を持つ人は、かつてできていたことが少しずつできなくなり、自信を失うことが増えていきます。自分のすることを否定されたり、止められたりすることも多くなりがちです。そんな中、臨床美術では、参加者みながその人のありのままの姿、その人らしい表現を受け入れ、その良さを言葉にして伝えていきます。いわば、ポジティブな言葉のシャワーを浴びることで、自己肯定感や自尊心を高めていくことができるのです。

まず同僚への肯定的な言葉掛けを増やす

介護職のみなさんは、こうしたプログラムを用いなくても、日々のケアの中でできることがあります。高齢者にとって居心地のいい場を作ること。その人なりの考え、行動、表現を受け入れること。それをポジティブな言葉で伝えていくことです。人は誰でも、怒鳴り声や怒った顔が多かったり、バタバタと気ぜわしかったりする空間にいると、気持ちが泡立ちます。また、自分がやろうとしていることを止められたり、否定されたりすることが続くと、ストレスが高まります。

反対に、笑顔や、穏やかで優しい声の多い場にいると、心が和みます。「すてき」「いいかんじですね」「うれしいなあ」「ありがとう」など、肯定的な言葉をたくさんかけられると、気持ちが安定していきます。こうした場を作って行くには、まずは介護職同士の関係を良くして、お互いの間で肯定的な言葉掛けを増やしてくことが必要です。介護職同士がお互いの良さを認め合える職場環境をつくれてこそ、利用者である高齢者の良さも認めることができます。

今の自分の職場の雰囲気が、今ひとつだと感じているなら、まずは、同僚がしてくれたことに対して、「ありがとう」と伝えることから始めてみませんか。一人がそうしたちょっとした変化を起こし、その変化を起こし続けていくことが、次の変化を生んでいくのです。

＜文：宮下公美子　(社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)＞

＊　臨床美術で脳を活性化　（毎日新聞2016年8月6日）

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