現在、社会福祉法人にしか認められていない特別養護老人ホームの開設を、株式会社や医療法人にも認めるべきではないか――そんな提言が、2016年9月、公正取引委員会(以下、公取委)から示されました(*)。あくまでも提言ですから、すぐにこれが実現するということではありません。しかし、長年、噂されてきたことだけに、いよいよ来たか、というムードがあるのも事実です。
株式会社の中には、特養開設に意欲を持つところも
そもそもなぜ公取委が、そんな提言をしたのでしょうか。公取委は、独占禁止法を運用するために設置された機関。公正で自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できる環境の整備を目的とする組織です。
今回の提言が示されたのには、「地域包括ケアシステムの構築」が進む中、「日本再興戦略2016」(平成28年6月2日閣議決定)において、介護分野の生産性向上が求められているなどの背景があります。公取委はこの提言により、次のような好循環が生まれることを目指しているのです。
事業者が新規参入や創意工夫をしやすい環境を整える
→いい競争が生まれる
→サービスが質・量ともに向上する
→利用者が多様なサービスを比較検討できるようになる
→よりよいサービスが選ばれる
→さらにサービスの質が向上していく
医療法人や株式会社の中には、条件次第で特別養護老人ホームを開設したい、と考えている法人が相当数あるようです。そう遠くない将来、もしかしたら株式会社運営の特別養護老人ホームが誕生することになるかもしれません。
▼株式会社等による特別養護老人ホームの設立・運営への意欲
ついに社会福祉法人の非課税が撤廃される日が来る?
今回、公取委が自治体に対して示した特別養護老人ホームに関する提言には、次のような内容も含まれています(*)。
1. 必要なサービス量を超えた際に、指定を拒否できる「総量規制」の運用を適切にすべきであり、事業者選定の際は透明性を確保すべき
2. 自治体独自の補助制度は、法人形態を問わず公平なものとすべき
3. 特別養護老人ホーム設置に対して、以前は高額の補助が出されていたが、過剰な補助は望ましくない
4. 社会福祉法人は、原則として法人税、住民税、事業税が非課税だが、優遇の差を狭める方向での見直しが望ましい 等
この提言を読んで、「その通り!」と思った方もいるかもしれません。たとえば1。自治体が特別養護老人ホームの整備にあたり、整備法人を公募した際、どのような観点で運営法人が選定しているのか。その指標はほとんど示されていません。不透明な選定については、以前から疑問の声がありました。
▼公正な方法で選考が行われていないと考えられる、不適切な事例の有無(株式会社等の回答)
また4については、株式会社など、課税されている法人からは、常々、不公平だという意見が出されていました。社会福祉法人は非課税である代わりに、その公共性、公益性から、地域への貢献が強く求められています。しかし、地域との関わりは、年1、2回の夏祭りやバザーの開催程度。地域に対して十分に開かれた存在となっていない社会福祉法人もあり、これに対する批判の声も少なくありません。
これまで、守られた存在だった社会福祉法人。しかし、ついに営利法人と同じ土俵で事業運営をしなければならなくなる日が来るのかもしれません。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*(平成28年9月5日)介護分野に関する調査報告書について(公正取引委員会)