保険外サービスの同時一体的提供が可能に?
ずっと検討されながら、なかなか具体的にならなかった「混合介護」が、いよいよ動き出しそうです。今年度中にも、東京で特区制度により、混合介護をスタートさせる話が具体化しています(*)。混合介護とは、介護保険のサービスと介護保険外のサービスを組み合わせて行うこと。医療保険では、差額ベッド代や一部の高度先進医療、歯科の一部の義歯等以外、保険外診療と保険診療の混合診療は原則として認められていません。
一方、介護保険では以前から、「横出し」や「上乗せ」サービスとして、混合介護が一部認められていました。以下のようなサービスは、保険内のサービスと同時一体的な提供が規制され、保険内サービスと明確に区分することで提供が認められていました。
上乗せサービス
・利用限度額上限を超える回数の利用
・時間延長
・特定施設での利用者の希望に応じた上乗せサービスや、手厚い人員配置についての介護サービス利用料
横出しサービス
・介護保険の給付対象となっていないサービス
(例:緊急通報サービス、配食サービス)
これに対して、今検討されている「混合介護」は、一体的に提供され、料金を事業者が自由に設定できるとされています。たとえば、通常、介護報酬が2000円に設定されている介護保険のサービスがあったとします。自己負担割合1割の場合、保険給付が1800円、利用者負担は200円です。これを、サービスを提供する介護職のスキルが高いからと、3000円に設定した場合。保険給付は1800円のままで、利用者負担は1割負担の200円+上乗せ分1000円の1200円となるわけです。
混合介護には賛否両論ある
この混合介護については、賛否両論あります。
賛成意見としては、利用者からすれば、高くてもよりよいケアが受けられる、介護保険では認められていないサービスをやってもらえる(ペットの散歩など)など。事業者側からは、収益を増やすことができ、給与水準の引き上げにつながる、といった意見が聞かれます。
一方、反対意見としては、利用者の経済状況によって、受けられる介護に差がついてしまう、事業者が高いサービスを利用者に押しつける恐れがある、料金に見合うサービスかどうかを利用者が判断する基準がない、価格が上昇する恐れがある、など。また、国は、混合介護を導入しておくことで、徐々に介護保険でカバーする部分を減らしていくつもりなのではないか、という意見もあります。
混合介護で介護保険はますます複雑化
そもそも、介護保険は制度が次々と変更になり、複雑すぎて高齢者が理解するのが難しいといわれています。要支援者向けの一部サービスが、2017年度末までに介護保険から外れ介護予防・日常生活支援総合事業に移ることも、高齢者に十分理解されているとは言えません。保険内サービス、保険外サービス、1~2割負担、全額自己負担などが入り交じる混合介護は複雑すぎて、高齢者が理解するのは苦労しそうです。
また、十分理解できたとしても、事業者からサービスの提案を受けたとき、その報酬の妥当性を判断する材料が乏しいことと思います。さらには、認知機能の低下で理解力や判断力が衰えている高齢者は、悪意のある事業者が付け入ろうとすれば、言われるままに不利な契約をしてしまうことがあるかもしれません。
そう考えると、全くの保険外サービスを自由市場にしてしまうのはリスクが大きいかもしれません。少なくとも、サービス内容と料金システムを地域包括支援センターに登録するなど、一定の監視の目を入れる必要はあるように思います。また、利用者を守るために、ケアマネジャーにも力を発揮してもらいたいところです。地域にどのような保険外サービスがあるかについての情報を把握し、それも含めたケアプランを作成していく役割を担ってほしいものです。
混合診療は、うまく機能すれば、利用者にとっては選べるサービスの幅が広がります。事業者間の自由競争でよりより良いサービスが生まれていく可能性もあります。そのためには、介護を単なるお金儲けの手段と考える事業者が自然とはじき出されるような、そんな業界内の相互監視が必要です。混合介護の導入により、初めて本格的に市場原理が働くことになるのであれば、この機会に、良いサービスだけが生き残れる健全な業界になっていくことを期待したいものです。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*「特区で混合介護推進」小池都知事が表明 (日本経済新聞 2016年11月10日)