健康診断・医療・介護のデータを一元管理へ
2017年1月、政府が医療と介護のデータを一元管理する「保健医療データプラットフォーム」の創設に向けた検討に入ったという報道がありました(*)。
これは、国内で実施する健康診断から医療、介護の情報までの全情報を集約するというもの。
2020年度からの本格稼働を目指しています。
健康診断、医療、介護の全情報の集約とは、つまり、Aさんがいつ健康診断を受けて、どのような結果になっているか。
どのような病気で受診して、どのような薬が処方されたか。
その後、いつから、どのような介護サービスを、どの程度使っているか。
そんなことが、一気にわかるシステムというイメージではないでしょうか。
このビッグデータを管理するのは、医療保険、介護保険の審査・支払いを行っている、国民健康保険団体連合会と社会保険診療報酬支払基金になるようです。
厚生労働省としては、データを大学にも公開し、研究開発に活用して、医療と介護の質の向上、効率化につなげようという考えです。
各地域でのデータの一元管理にも取り組んでほしい
この一元管理も、もちろん意義はあると思います。
しかしそれ以上にやってほしいのは、各地域での医療と介護のデータの一元管理です。
地域包括ケアの時代になり、医療と介護の連携の重要性が言われています。
そこで、いろいろな地域で、医療と介護の「連携シート」などがつくられていますが、活用されてうまくいっているという話はあまり聞きません。
書き込むのが面倒であったり、面倒なわりにはメリットが見えにくかったりするからではないかと思われます。
しかし、もし、個人ファイルが作成され、そこに1人の全ての医療情報、介護情報が書き込まれるようになったら、とてつもなく便利だと思いませんか?
まず、介護サービス開始に当たってのインテーク面接に時間を掛けなくても、過去のデータを見れば、過去の病歴や介護が必要になった直接の疾患もわかります。
介護サービスの利用者が、体調不良でどこかの医療機関を受診したとき、そのカルテが自動的に共有できれば、持病や血圧など、介護の際に何に注意すればいいかもわかります。
医療機関にしても、受診した患者の不調の原因を探るとき、介護記録を見ることができれば、いつからどのような状態が続いていたかを知ることができ、診断の役に立ちます。
また、複数の医療機関を受診してもその情報が共有されれば、薬の重複処方の問題は起こらないでしょう。
一元管理を実現している法人、地域もある
一つの圏域で医療機関と介護施設を運営している、ある法人では、法人内で情報共有できるシステムを稼働しています。
これは、利用者から「同じ法人が運営しているのに、なぜ行った先々でいちいち同じ病気の話を一からしなくてはならないのか」というクレームを受けたのがきっかけだったと言います。
この法人が運営する病院の院長が号令を掛けて情報共有のプロジェクトチームが作られ、数年がかりでシステムを作り上げたそうです。
今ではその法人は、運営する病院の入院患者、施設の利用者の情報だけでなく、待機者の情報も一元化。
法人内のどこの事業所でも、利用者の情報を見られるようにしました。
これにより、たとえばケアマネジャーが相談を受けたことが、デイサービスの職員にもリアルタイムで共有されるなど、サービスの向上につながったと言います。
同一法人だからできたこと、と思いますか?
しかし、九州のある市では、市内の様々な医療機関、調剤薬局、歯科医院、訪問看護ステーション、介護施設、居宅介護支援事業所などを一つのシステムでつなげるネットワークを構築しています。
情報共有を本気でやっていこうとすれば複数の法人間でもできる、ということです。
反対に言えば、誰かが動き始めない限り、状況はいつまでも変わらないのです。
市町村が保険者となる介護保険は、地方分権の試金石と言われました。
介護保険制度はすっかり定着し、今度は「地域包括ケア」が地方分権による運用の差が出る仕組みとなるでしょう。
誰かが主体性を持って動き始めた地域では実効性のある地域包括ケアが提供される一方で、主体性を持って動く人がいなかった地域は取り残されていく。
これからはそういう時代になっていく可能性が大きいのです。
そのことは、知っておいた方がよいでしょう。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*医療・介護データ、一元管理 サービス向上狙い、20年度稼働へ(毎日新聞 2017年1月11日)