介護福祉士の国家試験受験者数が半分に
2017年1月末に実施された、2016年度の介護福祉士国家試験。
その受験者数が、前年度の約半数にまで落ち込んだことが報じられ、介護関係者に衝撃が走りました(*)。
これは、介護福祉士の受験資格が変更になり、実務経験者には「介護職員実務者研修(以下、実務者研修)」の修了が義務づけられたためではないかとされています。
介護福祉士の資格取得は、「介護職の資質向上」を目的に2007年に法改正され、ハードルが高くなっています。
日本人の資格取得ルートは3つあり(注)、一つが今回、話題となった「実務経験ルート」。
ほかに、「養成施設ルート」と「福祉系高校ルート」があります。
「実務経験ルート」は、2015年度までは「介護職としての実務経験3年以上」が受験資格でした。
それが2016年度から、「実務経験3年以上」に加えて、「実務者研修修了」も必要になったのです。
実務者研修は、介護職員初任者研修(旧・ホームヘルパー2級研修のこと。以下、初任者研修)を修了していれば、320時間の受講でOKです。
しかし、無資格の場合はフルで受ける必要があり、受講時間は450時間にも上ります。
受講料を見ると、フルで450時間受講する場合は約10万円~約22万円。
初任者研修修了者も、約8万円~約20万円かかります。
受講するには少し覚悟が必要な金額ですよね。
また、通信教育で受講するにしても、6~7日程度は通学講座の受講が必要です。
当然、自宅課題も相当量あるわけですから、働きながらの受講はかなりの負担です。
そうしたことから、実務者研修を受講し、介護福祉士の試験に挑戦する人が減ったのだといわれています。
実は、受験資格変更で受験者が減ることは、厚生労働省など関係機関は当初から予想していました。
介護人材が不足している中で、資格取得のハードルを上げたら、ますます介護福祉士のなり手が少なくなるのではないか。
そんな声が大きかったのです。
そのため、本来は2012年度から導入されるはずだったこの改正法の施行は、延期に延期を重ねて、2016年度、ようや施行されたという経緯がありました。
もっと深刻なのは「養成施設ルート」?
しかし、「実務経験ルート」以上に法改正の影響が大きいといわれているのは、「養成施設ルート」です。
「実務経験ルート」「福祉系高校ルート」は、どちらも介護福祉士資格を取るには国家試験受験が必要です。
しかし「養成施設ルート」は、養成施設を卒業すれば試験なしで資格取得が可能。
これは不公平ではないかという批判がありました。
そこで、同じく2007年に、「養成施設ルート」も国家試験に合格しないと介護福祉士になれないと、法改正が行われたのです。
当初2012年度から受験が義務づけられる予定でしたが、こちらは「実務経験ルート」以上に改正法の施行が難航しました。
年々、入学希望者数が右肩下がりに減少している養成施設にしてみれば、国家試験受験の義務化は、さらに入学希望者を減らす恐れがあるからです。
施行の延期が繰り返され、ようやく2022年度の卒業生(卒業時期は2023年3月)から国家試験受験が義務づけられることに決まりました。
実に、当初の予定から10年も延期されたのです。
また、試験受験の義務化までの間の卒業生の取り扱いも異例です。
2017年度から2021年度までの卒業生に関しては、国家試験の受験は任意。
受験しなくても、受験して不合格になっても、卒業後5年間は介護福祉士として勤務することができます。
しかし、その後も介護福祉士として勤務するには、(A)国家試験を受験し、合格する、(B)5年間継続して介護等の仕事を続ける、のいずれかでなければ、介護福祉士の資格を取得することができなくなります。
「養成施設ルート」は、4年制大学の場合、2018年度入学が卒業時に国家試験を受験せずに、一時的にせよ、介護福祉士資格を取得できる最後の年度になります。
2年制の専門学校等の場合は2020年度入学が最終です。
養成施設の入学者数は、2016年度、定員の半数を割り込んでいますが、これを境に入学者数にさらに変化が出るのかどうか…。
気になるところです。
(注) このほか、外国人を対象とした「経済連携協定(EPA)ルート」がある。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
* 介護福祉士 出願者半減 「受験資格に研修義務」が要因(毎日新聞 2017年1月27日)