昨年10月末、特別養護老人ホームの待機者がおよそ22万3千人であることがわかりました。2013年に比べると、4割以上減少という結果です(*1)。
2015年に、入所条件が原則要介護3以上になったなどの影響が考えられますが、まだまだ待機者が多いように感じます。
しかし、開設から10年以内の1151施設を対象として実施された昨年末の調査では、回答した550施設の26%に空床があることがわかりました(*2)。
記事では、空床がある143施設のうち74施設が、職員不足を空床の理由と答えた点を大きく取り上げています。
一方、54施設は、空床がある理由を「申込者が少ない」と答えています。職員不足は大きな問題ですが、ここでは、「申込者が少ない」ことを取り上げてみたいと思います。
高齢者の数はいずれ必ず減っていく
65歳以上の高齢者の数は、団塊の世代が75歳以上になる2025年には3657万人に達し、2042年の3878万人をピークに減少に転じると推計されています。
少子化が解消されない限り、高齢化率は右肩上がりで高まり続けますが、高齢者の数は減っていくのです。
*内閣府「平成28年度版高齢社会白書」より<クリックで拡大>
すでに、高齢化のピークを過ぎた地方都市では高齢者数が減少し始めています。
ある特別養護老人ホームの施設長は、地方都市の特別養護老人ホームの現状をこんな風に話してくれました。
「100床の特別養護老人ホームで、1年間に亡くなる方は25人程度です。かつては1施設で入所申込みをしている人が100人くらいいるのは当たり前でしたが、特養の入所が原則要介護3以上となってからは、申込者数は半数近くまで減っています。
たとえば、50人が申込みをしていたとして、緊急で入所の必要がある人は、20~25人程度です。今後、これまでと同じように入所希望者が増えるとは限りません。
そうすると、翌年以降はもう入所する人がいない可能性もあるということです」
「申込者が少ない」と答えた施設は、すでにこの状況にあるのかもしれません。
これからの特養の新規開設にリスクはないのか
2016年6月には、特養待機者が急減したという報道もありました(*3)。
23もの特養が林立する東京都青梅市では、「“営業”しないと入所者数を維持できない」(特養施設長)というのです。
都市部ではこれから急激に高齢化が進むため、今も特養の建設計画が進んでいる都市が少なくありません。
しかし、ピークに合わせて施設整備を進めれば、必ずその後は空床が続く時代がやってきます。東京都の市部ですら、すでにそんな状況にあるのです。
高齢者数の減少を見越して、すでに特養を「セーフティネット」と位置づけている市町村もあります。
要介護状態になっても、できるだけ在宅で暮らし続けてもらう。しかし重度化や家族の状況から、どうしても在宅介護が困難な高齢者については、特養に受け入れる。
そのために、特養のベッド数は、必要最低限の数だけを整備する。そして、それ以外の予算を居宅サービスや地域密着型サービスの充実に投入するというやり方です。
というのも、当然のことですが、施設サービスは在宅サービスに比べて格段に介護保険財政の負担が大きいからです。
2016年4月のそれぞれの費用額を受給者数で割った、受給者1人あたりの費用額を見てみると、次のようになります。
●施設サービス 29万800円
●地域密着型サービス 23万3600円
●居宅サービス 12万6300円
一人あたりの費用が居宅サービスの2倍以上もかかる施設をつくり続けていては、介護保険財政はどんどん苦しくなっていきます。
特養整備を最低限にしている市町村は、費用対効果等を考え、特養開設にかける数十億円の補助金を、居宅サービスや地域密着型サービスの整備に振り分けているのです。
特養のような大型の建築物は維持していくだけで相当の経費がかかります。高齢者人口がピークを迎えるまでに、施設開設時の投資を回収できたとしても、10年後、20年後、空床ばかりになる可能性もあります。
特養の新規開設を予定している法人は、今後の事業運営にどのような展望を持っているのか。介護職としては、このような介護業界の流れを把握しておくことも良いのではないでしょうか。
<文:宮下公美子 (社会福祉士・臨床心理士・介護福祉ライター)>
*1 入所、狭まる門戸 厳格化で待機4割減22万人 軽度要介護者、行き場なく(毎日新聞 2016年11月23日)
*2 特養、4分の1で空床…「職員採用が困難」「離職が多い」など理由(yomiDr. 2017年03月7日)
*3 特養待機者急減 要介護者、奪い合い 施設空き出始め(毎日新聞 2016年6月30日)